boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

「若林信仕事集2」を読む

コミックマーケット93頒布、サークル・アニメ風来坊より発行された『若林信仕事集2』。発行責任者及び編集は若林信。TVアニメ『エロマンガ先生』第8話絵コンテ集だ。独特なスタイルであるのは、コンテの上に直接フキダシを重ねて解説文を書いていることだろう。

部分的に見えづらい文字もあるが、解説とコンテを一つの誌面に収めるという取り回しの良さ(映像と見比べたり、メイキングブックとしての手軽さ)は他のコンテ集にないアドバンテージ。言うなれば「絵コンテコメンタリー本」であるわけだ。特長的なアニメーターの仕事、脚本からの変更点、重要なシーンの演出意図などが記されており、ファンにとっては堪らない述懐が散りばめられている。

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たとえばcut279*1。 ラストシーン、紗霧がカーテンに手を伸ばす前のACTION欄に書かれた「勇気を出して!!」という言葉。その解説は「ト書きでも何でもないですが気に入っています」。そうそうこういうものを読みたいんだ、と思った。描き手の心模様が不意に紗霧と同調しているかのよう*2

本作の強みでもある「紗霧カット」もそうだ。8話の当該カットはcut223,225。

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何故このカットを紗霧アニメーター・小林恵祐にやってもらいたかったのか――「。」を付けるためだという。グラスを飲んで皆の姿を嬉しげに見つめる正宗のカットは絶対に必要であると力強く語られている。本書の素晴らしさは「誰が描いてくれたのか」に加えて、その成果、狙いが克明に記されていることだ。設計図に直筆の解説書が付属しているのだから、読み手の胸もつい騒がしくなる。

また、面白いのは「癖として地味かつ重くなりがち」と言いながらも、開放的なレイアウトやアニメ的な表現を意図的に取り入れようと工夫している点。

cut54、広角の紗霧。ト書きには「昔のアニメみたいな」(押井アニメ的な?)。

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 cut166、牧野秀則パート。自分にはないアニメ表現でとてもありがたかった、との解説。

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 『若林信仕事集1』(謎の彼女X第6話)を読み返してみると、共通しているのは作り物ではない自然な間、呼吸と効果的な構図の追求、ドラマへの客観的な視線だろうか。記号でカットを割らず、人物の佇まい、心理描写を意識しながら、感情の温度を絶えず見つめている。踏み込みは鋭いが、優しさを忘れない。映画的なイメージを志向しつつも、フィクショナルの力を知っている。

とても楽しみ甲斐のある秀抜な同人誌だ。読めば読むほど若林信という人を深掘りしたくなる。『エロマンガ先生』が特集されたアニメスタイル012と合わせて読めばなおよし。「仕事集」シリーズの続刊もぜひ、お願いしたい。

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アニメスタイル012 (メディアパルムック)

アニメスタイル012 (メディアパルムック)

 

*1:ここでは絵コンテのカットナンバーに拠る。実際にはこのコンテに掲載されていないカットが足されているため、本編映像とはナンバーが異なるかもしれない。

*2:cut270、正宗が「情けないよな」と言うカットから、ラストまで中島千明パート。