boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『美味しんぼ』寺東克己回メモ①

TVアニメ『美味しんぼ』寺東克己回についてのメモ。

バラエティに富んだ本作の演出陣にあって、シリーズ後半からローテーションに加わる寺東克己は異彩を放っていた。ビーボォー出身のアニメーターであり、『美味しんぼ』は演出に軸足を置き始めた初期の仕事だ。立体的な構図感覚を持ちながら、片やおかしみのある画作りをする。それがとても好きだった。一度ブログに書いておきたいなと思っていたのだけど、機を逸していた。新年にかこつけて今、書いておく。

最初の寺東回は第86話「家族の食卓」。

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この話は冒頭から見ものだ。読者から送られてきた山積みの手紙に目を通す栗田ゆう子。次に文字を追う目の動きをクローズアップというインパクトあるカッティング。手紙の山に囲まれたカットは志村喬がハンコを押す、あの有名な黒澤明『生きる』(1952)の引用だろう。

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そしてキレキレの斜めアングル! こんな奥行きある構図は今まで使われてなかった。それだけに何か変わったぞ、違うぞ、と思わせてくれる。寺東回は海原雄山もスタイリッシュ。この威厳をみよ。鼻筋から眉間、右目の立体感に痺れる。

続いて第89話『究極VS至高 餃子の春』。

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作画監督/清山滋崇、原画/I.G竜の子 関口雅浩、石井明治、岡田和久という作画スタッフの影響もあってか、『銀河英雄伝説』やIG調のリアルな画が目立つ。ゆう子の友人、森沢よし子はとくに力を入れて描かれており、俯きがちな顔つきやタクシーの車内で泣き出してしまう感情の乗った芝居は必見(タクシーの窓から流れていく街灯もスライドではなくパースの変化を付けた作画になっていたりする)。

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新しい餃子の考案に燃える山岡のこんなアオリも登場。シリーズを通して、アオリのベストカットかもしれない。

一方で、小津映画を思わせる日常の風景を差し込むBパート頭。

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洗面台の前で歯磨きをし、前日食べ過ぎた餃子の匂いを消そうとするゆう子。アニメ『美味しんぼ』は基本的に原作に沿ったシナリオになっているが、話数によって構成を変えたり膨らませたりする。これもそのひとつだ。メロドラマで終わった前半からは打って変わったユーモラスな生活描写が憎い。

第93話『究極VS至高 エイと鮫(前編)』。

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衝撃的な鮫の映像を観たゆう子のキュートなリアクション。その横は山岡たちと広島まで同行した週刊タイムの編集長・三河元良。これは非常に美味しいカットで相貌に浮かぶ自信、口元がとくにいい。メガネの下の影もポイント。「至高対究極」の対決を目論んでいる内面の強調として付けられている。一度観たら忘れられない顔だ。

第95話『及第ガユ』。

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作監は河村明夫。I.G竜の子班からアクセル、アウトサイド班に原画陣が変わったものの、上目遣いのゆう子や得意の角度のクローズアップなど、冴えた表情付けは変わらず。また「シャブ」という言葉に反応した小泉局長の息子がイメージするショッキングがサブリミナルも印象的だ(再放送、配信では欠番の話数)。

そして後半、小泉家のシークエンスで降る雪の奥行き。

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「蛍雪の功」に掛けているのだろう、雪の描写は原作になく、アニメの拡張部分。それが相当凝っている。何しろこの細かさでちゃんと降っているのだ。粒子状に描いた素材を重ねてゆっくりと下に引きながら撮影しているのか、思わず見入ってしまう。高密度な雪の表現だ。

メモ②につづく。 

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