boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『恋は雨上がりのように』 #1 

渡辺歩監督の新作『恋は雨上がりのように』。

初回放映の後、すかさず原作を読み直してしまった。原作を大胆に再構成しているのに、違和感がない。17歳の女子高生・橘あきらは45歳のファミレス店長である近藤正己の何に惹かれたのか。原作以上にスムーズな導入かもしれないな、と思った。

WIT STUDIOの贅沢な作画表現には惚れ惚れするばかりだし(当たり前のように椅子を引いて座る……!)、何より演出の構想力がすばらしい。思わず感嘆の溜息が漏れたのは、あきらの瞳に水滴が映りこんだカットを観たときだ。

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近藤と初めて出会った雨の日。あきらのみつめる先には、雨と共に芽生えた恋心がある。そして遡っていくあきらの記憶。曇り空が耐え切れず泣き出した冷たい雨、目の前にあったファミレス。そこから現在の休憩室に時間を戻すのも上手い。現在と過去をカットバックしていく度に刺激される五感。雨とコーヒーとワイシャツの匂い……鮮やかな構成のアレンジ。これには舌を巻くほかない。

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イメージ喚起力も際立っている。あきらを包む炭酸の泡のようなヴィジョンと何度も登場する水滴。その交感がもたらす恋の陰影、潤い。アニメの出来栄えにしろ、物語にしろ、こんなものを毎週観てしまっていいのかという気持ちになる。だから、近藤が見せる中年の悲哀は緩衝材に丁度いい。真っ直ぐなあきらの視線を堪えるには近藤というバッファが必要だ。渡辺歩監督はなかなか前に踏み出せない中年の男をこれからどんな風に振り向かせるのか。楽しみで仕方がない。