boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『若おかみは小学生!』と『MASTERキートン』の高坂希太郎

先週末、映画『若おかみは小学生!』を観に行ってきた。
手際良くまとめられたストーリー、生命力を感じさせる人物作画、主人公・おっこ(関織子)の心の傷や不安定さに触れながらも、決して押し付けることなく、自然な感動へと誘う演出。これは少女の成長と奮闘を正面から描いた傑作だと思った。
エンドロールで流れるイメージボードも素晴らしいという一言に尽きる。市井の人々の何気ない瞬間をスケッチした近藤喜文「ふとふり返ると」を彷彿とさせるタッチで、高坂希太郎監督が花の湯温泉と春の屋旅館をどんな風にイメージし、作り上げていったか、その過程が表れているようだった。
ところで、高坂監督と言えば『茄子 アンダルシアの夏』が有名だと思うのだけど、個人的に一番心に残っている仕事はTVアニメ『MASTERキートン』だ。『MASTERキートン』ではキャラクターデザイン・総作画監督を務めた他、第22話「シャトー・ラジョンシュ1944」と第35話「五月の恋」の作画監督・絵コンテ・演出を担当しており、両話数とも相当に濃い“高坂回”に仕上がっている。ファン目線で嬉しかったのは、そのふたつのエピソードの要素が「若おかみ」にも反映されているように思えたことだ。

たとえば、「若おかみ」は基本的におっこの年齢感に合わせた作品ではあるものの、ビールやシャンパンなど、酒類が意外なほど存在感を持って登場する。とはいえ、これだけでワイン作りの話である「シャトー・ラジョンシュ1944」と結びつけるのはどうか、という気がしていたのだけど、「若おかみは小学生! 劇場公開記念 原画展」で展示されているイメージボードに「花の湯温泉ストーリー裏設定?」というものがあり、そこには6次産業化も! とコメントされた横にワインが描かれている。つまり、「花の湯ワイン」が生産されているかもしれないのだ。

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そしてもう一本、「五月の恋」は老婦人が50年前に日本で出会った英国人と会うためにロンドンを訪れる話。その英国人はだれとも結婚せず、50年間ずっと婦人を想っていた。ここにウリ坊と峰子の関係性が見えるのはただの偶然だろう。しかし「鯉のぼり」(病床に臥していた英国人が鯉のぼりを見る!)がキーアイテムとして出てくるところまで偶然で片付けてしまうのはなんというか、“惜しい”気がする。

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何より、「五月の恋」も、オリジナルストーリーによって原作とは異なるエンディングを迎えた「シャトー・ラジョンシュ1944」も取り戻せない何かを失った後、一から歩き出す物語だ。悲劇性を強調するのではなく、新しい歩みの清々しさを主張する。映画『若おかみは小学生!』にも共通するこのテーマこそ、高坂希太郎的だなと思う。

これは余談。監督を語る上で欠かせない重要なプロップとして思い浮かぶのはそう、自転車。「茄子」のみならず、『MASTERキートン』でも自転車の出番は多く、とくに百合子がロードレーサーで走っているエンディングは忘れられない。じつは「若おかみ」にもロードレーサーがちらっと登場している。当該カットは冒頭、おっこがマンションから出て、赤い橋を渡っている場面。視線誘導にも絡まない趣味的な出し方で、我慢しきれず描いてしまった、という感がらしい。次に観るときは、プロップに目を配ってみてもおもしろいかもしれない。

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