boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

22/7「あの日の彼女たち」考 day02 河野都


22/7 「あの日の彼女たち」day02 河野都

「day02 河野都」は要約すれば、「ファミレスのコールボタン*1をいつ押すか」という話。にぎやかな場所を舞台にしているためか、雰囲気は明るく、空気感や色合いもはっきりしていてどこかコメディタッチ。明朗快活、身振り手振りの大きい都、冷静に物事を決めたい性格の丸山あかね。対照的な2人*2のコールボタンを巡る攻防戦、コントチックなノリが愉しい。しかしよくよく観ると、作為的な会話劇に見せない工夫を凝らした映像であることに気付かされる。
たとえば、何度も使われるツーショットの構図。画面の中心にカメラを設定するのではなく、少しだけ都側に寄り、やや俯瞰のアングルで2人を収めている。状況的な力関係、流れの向きを自然に印象付ける、抜かりないカメラポジション。視線/目線の設計も技巧的だ。44秒辺りのバストアップ(あかねの見た目)までカメラ目線のカットを使わず、観客を巻き込んだ視線の衝突、同一化と緊張感が連動する形になっている。

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面白いのは視線がぶつかる緊張そのものをコメディにしてしまっていることで、なかなかコールボタンを押させないあかねに対し、都は人差し指を伸ばしたまま右手を大きく振り上げ――眩しい光が画面を包む。この光の変化は滝川みう潜在的な輝きを照らした「day01」のものと似ているが、ここでは演出ジョークのような扱い。相手の出方を見て動かない2人、その横を何食わぬ装いでウエイトレスが通り過ぎ――同時に観ているこちらの緊張も去っていく。不意に視線を動かす都、何かを見つけたような顔で外を見つめ、その表情に釣られ横を向いてしまうあかね――ポチッとな。細かい視線の動き、表情芝居、リズミカルなカッティングがすばらしく、一呼吸遅れて反応するあかねが微笑ましい。

そして一旦BLカットを挟んで時間を飛ばした後、緊張の注文を終えたあかねの安堵を余所に、あかねの思い付かないような注文をする都。「え?」というリアクションの横顔をボカしたままのカットアウトが小気味よく、対比的な切り返しがちょっぴり意地悪だ。

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話としてシンボリックな部分があるとしたら、ボタンを押すという行為(どういういきさつでアイドルになったのか、いつ決めたのか)と「何かを見つける」(違う側面の発見)ことの比喩だろうか。バックストーリーも気になるところだ。あかねの浮かべる安堵の表情(ファミレス慣れしていない感じ)や彼女の横に置かれた水色のリュックサック、やたらと上機嫌だった都、このファミレスに来るまでの物語を考えてみたくさせる材料が散りばめられている。ユーモラスで想像しがいのある一編だと思う。

マスターショット2 [ダイアローグ編]

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*1:正式にはワイヤレスチャイム、あるいはコードレスチャイムと呼ばれる製品。

*2:都はちゃっかりしているし、あかねも案外ノリがいい。じつは似ているのかもしれない。