boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

演出メモ/『22/7』7話 絵コンテ・演出/森大貴

性質的にTVアニメは予期せぬ出会いが起こりやすい。

『22/7』(ナナブンノニジュウニ)第7話「ハッピー☆ジェット☆コースター」は集団食中毒という突発的でエキセントリックな導入から、まさしく予期せぬ物語になった好例だ。主役は一人食中毒を免れた戸田ジュン。倒れたメンバーの穴埋めに東奔西走する羽目に陥っても、ジュンはへこたれず次々と仕事の難題をこなしていく。22/7のメンバーとして「いま」を走るジュンが人知れず背負ってきた「過去」の出来事、そして躊躇いのないヴィヴィッドな演出の数々。この話数に於けるもう一人の主役は、その演出だと言ってしまいたいくらいだ。

回想が始まってまず目に飛び込んでくるのが、逆光で咳き込むジュンと鮮やかすぎる青一色に染められた空。

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影色と青による強烈なハイコントラスト。ジュンはずっと影の中にいる。日向を歩いていても心には影が落ちているのだろう。雲ひとつかからない澄み切った青空が、翻って逃れられない病気への諦観、運命の残酷さを印象付ける表現になっており、ジュンにとっての過去は「影を落とす」ものであると静かに告げる。

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暗闇をただ歩くだけだったジュンを変えたのが、同じく影の中にいながらいつも楽しげな少女、松永悠。光と影の境界で空を見上げていたジュンに「人生は遊園地だと思う」という教訓を与え、文字通り人生を照らす存在になった。病院の屋上でかくれんぼをするジュンが光へと"落ちる"シーンは皮肉的であり、感動的だ。

映像のアクセントになっているのは、ジュンの心模様を示す様々な花のモチーフ。

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病院のベッド脇に飾られた芍薬は5月生まれのジュンの誕生花。

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花のモチーフはカラオケのディスプレイに流れる映像や悠にあてた手紙の柄にも使われており、非常にシンボリック。ラストシーンで満開になった芍薬からジュンがこっそり握り締める手紙へのモンタージュが示す通り、悠という光を受けて「戸田ジュン」が開花するまでを描いた一篇とも言える。

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またシンボリックな画作り/演出で技巧的だったのが、雨のシルエットと屋上のバックショット。

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光を失ったジュンが逆光の中で泣き腫らし、ふたたび影を背負う。最初の回想パートでは空の青さが責め立てる逆光だったが、ここでは夕陽がその役を負っている。重要なのは雨のシルエットと逆光によってジュンの「輪郭」だけが浮き上がり、中身=心が抜けたように見えることだ。

ゆえに、慌ただしく走り回る「いま」のコミカルな「戸田ジュン」と合間に立ち止まり、自分自身を冷たく見据える「戸田ジュン」の二面性が際立ち、エピソードに奥行きが生まれている。

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「ハッピー☆ジェット☆コースター」はその愉快なサブタイトルとは裏腹に、「光と影」のレイヤーを構造/演出上にいくつも盛り込んだ野心作だ。ユニークであり、見方によっては酷薄な物語を描き切った演出家は森大貴。個人的には映像感覚やモチーフに山田尚子監督『聲の形』('16)を思い出してしまった。

けれど、もしかしたらそれは舞台設定や表現の上澄みを汲み取った印象に過ぎないのかもしれない。絵コンテ・演出を担当している過去作、『僕だけがいない街』6話、『FateApocrypha』9話などを観直すチャンスは今だ。

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