boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』5話の視線誘導・ピン送りメモ

ヴァイオレット・エヴァーガーデン』第5話の視線誘導・フォーカスについてメモしておきたい。

京都アニメーションお家芸とも言える被写界深度のコントロール。第5話のそれは今まで以上に精緻で見慣れないものがあった。

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シャルロッテ王女と向かい合うヴァイオレット。ここではPANするカメラに合わせる形でピン送り。しかもこれは実写でいう移動撮影(トラック)風のカメラワーク。王女を画面中央に据えたまま、まるでヴァイオレットが「道を開けた」ように感じさせる。

ダミアン王子からの手紙が思い通り内容でなく、寝室に戻るシャルロッテのカット。

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苛立ちを隠さず立ち去る王女からヴァイオレットへのピン送り。王女の反応に引っ掛かりを覚えるヴァイオレットの心理にフォーカスするためだと思われるが、一見しただけでは見逃してしまいそうなほど細かい。

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王宮の庭で会話するふたり。PANダウン+ピン送り。ヴァイオレットに焦点が送られているものの、このシーンの本当の主役は王女が手に持った花。ティアラから花(王女からひとりの少女に)への誘導も兼ねた憎い演出。

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こちらはペンにインクを付ける瞬間に後ろから前へピントを合わせるカット。王女の猛烈なアプローチを強調する格好だ。

第5話の演出陣は絵コンテ/山田尚子、演出/藤田春香、澤真平。山田尚子がコンテを担当した回でこれほどナメたり切り返したりを繰り返したものは珍しい*1。向かい合って話をさせるより、作為的でない自然な立ち位置にいる人物の会話をドキュメンタリータッチで撮るという形式が多かったからだ。だが今回の相手は王女。定式的な配置、作法が存在する王宮の会話劇であることを考慮してプランニングしたのかもしれない。それにカット単位、シーン単位でコントロールしてきた視線が、シャルロッテと宮廷女官のアルベルタに収束する結末も美しい。技法と物語の調和がとれた、傑作話数だ。

*1:もちろん、監督によるコンテチェック、演出処理や撮影の手が入っていることも考慮しておきたい。