boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『色づく世界の明日から』と篠原俊哉のポッキー

P.A.WORKS×篠原俊哉の新作『色づく世界の明日から』が始まった。魔法の使える社会で魔法が使えず、幼い頃に色覚を失ってしまい、灰色の世界を見つめてきた少女・月白瞳美が祖母の時間魔法によって突然60年前へと渡るファンタジックな作品だ。

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第1話Aパートで瞳美は過去へと時間移動することになるが、そこで気になるプロップがあった。彼女が手に持っているポッキーだ。花火の約束をした祖母を待っている間、瞳美はポッキーを口にする。そして時空を超えるバスに乗車しているときにも少しかじり、現金を持っていなかった瞳美は運賃代わりに箱ごと手渡す。Aパートを通して微妙に時間を持て余している雰囲気であるとか、持っていて自然な表現としてポッキーが一役買っており、なんというか演出的な趣向が感じられた。

それもそのはず、じつは篠原俊哉監督は(妙な言い方で申し訳ないけれど)名うてのポッキー使いなのだ。監督作である『凪のあすから』18話と各話演出で入った『Charlotte』(12話、ED)でも印象的な小道具として登場しており、興味深いなと思っていた。

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ポッキーがどんな性質を持ったアイテムか考えてみると、まずCMの影響(歴代のトップアイドルや女優が起用されている)もあってか、美少女と相性がいい。画的に可愛らしく、くわえたり持っている姿が様になる。また、携帯に適しており、食べるとポキッと軽快な音が鳴る。つまりリアクションが付けやすく、カット内の契機にしやすい。これは演出上便利だなと思う。他方で、「食べかけのまま戻せる」という“機能”を備えているお菓子だ。

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例を挙げれば、『Charlotte』12話の奈緒は食べかけのポッキーを箱に戻し、有宇に渡している。ひょっとすると見逃してしまいそうなロングショットの芝居だが、「恋人になる約束」「能力の略奪」に「食べかけのポッキー」を加えることで奈緒の心理描写を深めているわけだ(鏡の使い方もテクニカルなシークエンス)。

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『色づく世界の明日から』にも食べかけたポッキーを戻している場面がある。待ち合わせに祖母が来たところと、(箱の中に戻す芝居は描かれていないが)おそらく戻していると思われるバスの席から立ち上がるシーンの二箇所。これは「そういうの、どうでもいい」と言って祖母に「あなたの悪いクセよ」とたしなめられているように、食べかけであるかどうかなんてどうだっていいと心を閉ざしている表現かもしれないし、あるいは過去への時間移動に引っ掛けて「戻す」ということ意図した芝居なのかもしれない。いずれにせよ、解釈の余地を残す、暗喩的な使われ方だ。バスを降りるシーンでは円筒形の箱の底から映すアングルを利用して「2078.9」を見せているのも効果的(わざわざ説明しない)で、映像演出におけるプロップの活用例として面白いものだった。

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次はいったいどんな形で用いられるのか、篠原俊哉監督のポッキーに乞うご期待。