boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『さすがの猿飛』28話の回し蹴りメモ

NHK NEWS WEB 京アニ・つなぐ思い」のページに11月25日付けで「子どもに夢を ~“天才アニメーター” の素顔~」という記事が掲載された。これはアニメーター・木上益治の軌跡を辿る貴重な証言集。その中であにまる屋時代の同僚・奈須川充さんが『さすがの猿飛』の思い出を語っていた。

須川さんの思い出に残っているのが、テレビアニメ「さすがの猿飛」、第28話「ミカの愛した英雄バイク」。原画を担当した奈須川さんは、作業が間に合わず、木上さんに助けを求めました。快く引き受けた木上さんが描いたのは、主人公の猿飛肉丸がヒロインらに蹴られるシーン。演出の絵コンテにはただ単に「蹴る」としか指示が書かれていませんでしたが、木上さんはその「蹴る」という動作を膨らませ「回し蹴り」として描き出すことで、ダイナミックなシーンに作り上げていきました。どんな些細なワンカットにも一工夫を加え、クオリティを高めていくことに木上さんは徹底してこだわっていました。

 28話で肉丸が蹴られるシーンはAパート、美加がバイクでやってきてからの一幕。

f:id:tatsu2:20191125184412g:plain

一見すると天丼のギャグカットだが、ワンカット内に3アクションを入れた贅沢な設計で、魔子の回し蹴りは、踵をターンさせ、蹴る瞬間わずかにジャンプする飛び後ろ回し蹴りだ。

f:id:tatsu2:20191125192850p:plain

蹴りを放つ前の予備動作・ポージング、(蹴り脚の)足首の角度や空中姿勢、蹴られた肉丸の崩し方とオバケなど、細かいこだわりがふんだんに盛り込まれている。タイミング的には有名な16話のかすみ(肉丸の母)が肉丸を蹴るカットに近く、見比べてもいいかもしれない。

余談として、28話「ミカの愛した英雄バイク」まで猿飛のあにまる屋回は原画がスタジオ名で統一されており、次の35話から個人名がクレジットされる。けれど、そこに木上益治の名前はない。つまり、シリーズ中一度もクレジットされていないアニメーターなのだ。にもかかわらず、その仕事ぶりが関係者から語られる。京都時代も複数の名義を使ったり、ノンクレジットの仕事が多かったが、猿飛はじつに"らしい"な、と思う。

関連:WEBアニメスタイル もっとアニメを観よう  ■ 02/06/27 第2回 井上・今石・小黒座談会(2)