boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝』絵コンテ集と愛嬌

先日、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン 外伝 –永遠と自動手記人形-』のBlu-ray/DVDが発売された。パッケージの詳細が発表されたとき、気になっていたのが「監督厳選 解説付き絵コンテ集46P」の一文。あの自身の演出について自覚的かつ自省的な*1藤田春香監督が何を解説してくれるのか。これはぜひ手に取って確かめなければと思っていた。

だが、あにはからんや、実際に絵コンテが収録されたコメンタリーブックレットを開いてみて、まず目に留まったのはコンテ用紙だった。

f:id:tatsu2:20200325175028j:plain

『外伝』のアスペクト比は劇場のスクリーンに合わせたシネマスコープサイズ。当然、絵コンテもTVシリーズとは違う専用の用紙を使って描かれているのだろうと思っていたのだけど、まさかの手描き用紙!*2よく見ると枠線がはみ出していたり、線が重ねられていたりと手作り感たっぷり。単なる憶測にすぎないが、もしかしたら藤田春香監督がみずからのために、通常のコンテ用紙を参考に描いたのかもしれない。

監督による解説はワルツ、前後編ラストを含む11シーン。肝心の絵コンテは被写界深度の指定をはじめ、ヴァイオレットとイザベラの距離感や温度感、世界観など人物の心境を物語る演出指示が多く、感情の積み方、記し方に特徴がある丁寧な内容。ややマニアックなポイントとしては、Cut361Ⓐのpicture内に書いてある小さな「ほんま」の味。

f:id:tatsu2:20200325181558j:plain

恋文の代筆に定評があると 「マジレスするヴァイオレット」のト書きもおかしく、すこし緩んで解けた雰囲気の表現が秀逸。ヴァイオレットが口にしているわけではないが、監督の声だろう、関西弁の"地"が出ているところが微笑ましい。じつはこの「ほんま」で思い出した別の「関西弁」がある。「公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失」に掲載されていた絵コンテ、高雄統子パートの長門有希だ。

f:id:tatsu2:20200325175650j:plain

ここにはキョンと「あ、目があってしもた。どうしよ。緊張してきた。どうしたらええかわからん」と心の内が書かれている。京都アニメーションには時折、人物の心情を補足的に書いておく演出家がいるが、これは「関西弁の長門有希」という愛らしくも珍しいコンテの中だけの存在。それが記憶に残っていたのだ。

出版された絵コンテ本や特典の絵コンテ集はファン向けの制作資料だが、その楽しみ方はそれぞれだ。通常は完成映像と照らし合わせて変更箇所、あるいは作画の解釈を探ったり、ト書きに演出家の個性を見つけたりする。その点、コンテ内の関西弁はスタジオの土地柄が反映されたもので、言わば愛嬌だ。こういった細かい癖や変わった表現を覚えておくことも、コンテを読み込むおもしろさ。本道からは外れているかもしれないが、横道にしかない発見もある。

真っ当(?)な話もしておこう。本編で咲いている種類豊富な花の数々。前編は白、後編では色とりどりに、という意図で描かれているが、調べて胸を打たれた花がある。それはクライマックス、イザベラがテイラーからの手紙を読んでいるカットの画面手前で咲いているヘリクリサム・ペティオラレ。花言葉は「永遠の思い出」。コンテ段階で花が指定されているので、タイトルの「永遠」に掛かった意味を入れたかったのだろう。それ自体を取り上げると気恥ずかしくなってしまう花言葉だが、ヘリクリサムに関しては、この場面でこれ以上相応しい花はないなと感じ入ってしまった。藤田春香監督の真っ直ぐな演出。『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』は花と色、そして永遠を繋ぐ空の物語なのだ。

f:id:tatsu2:20200326153008p:plain

公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失

公式ガイドブック 涼宮ハルヒの消失

  • 発売日: 2010/02/26
  • メディア: 単行本
 

*1:劇場パンフレットのインタビューはファン必見。

*2:『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』のパッケージ特典「石原監督厳選名場面コンテ集」と比べてみると、違いがひとめで分かる。