boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

アクアの輪っかと金崎演出

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この素晴らしい世界に祝福を!』は何度観ても笑って騒いでたまにしんみりして、心の底からスカッとした気持ちにさせてくれるアニメだ。今回はそんな『このすば』に登場する水の女神・アクアの「輪っか」について書いてみようと思う。

アクアの髪型はかなり変わっている。後ろに大きな"輪っか"を作り、青い球体の髪飾りで留めるという、特徴的なスタイル。毎朝欠かさずセットするアクアの苦労がしのばれるが、感心してしまうのはその輪っかを使った演出の遊びだ。たとえば第1期8話「この冬を越せない俺達に愛の手を!」Aパート、ウィズの店内をうろつくアクア。

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スーパーマリオ風にジャンプして「の」がコインのように獲得されるアイキャッチから、「輪っか」の左右運動→付けPANでアクアが顔を出すというカット繋ぎ。「の」と「輪っか」の形、上方向への意識をかけたパロディ的かつ映像的な工夫がおもしろい。

また8話には、アクアの髪型でしか成立し得ない演出もある。

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ウィズが見逃してくれた恩返しにスキルの伝授の申し出るシーンで印象的な「輪っかフレーム」。ウィズとアクアの立ち位置からすると、多少嘘のある構図かもしれないが、「アクアに問い詰められるウィズ」という心理的包囲を成立させることで説得力を持たせている。弱い者にはとことん上から目線に出るアクアの人物像が反映された、アクアにしかできない構図だ。

この「輪っかフレーム」は気に入られているのか、第2期1話「この不当な裁判に救援を!」でも用いられている。

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国家転覆罪の容疑で牢に繋がれたカズマを脱獄させるために駆けつけたアクア。牢獄に入れられ、さらにアクアの輪っかに収まってしまうカズマという「二重包囲」が本作らしいブラックジョークなのだが、同話数の後半にはジョークが一変、笑えない方へと事態が進んでしまう(本質的にはシチュエーションコメディが続いている)。

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いささかやり過ぎにも見える絞首台の輪縄をナメたカズマの画。前半の「輪っか」とのギャップが著しく、回り回ってアクアの尻拭いをするカズマの終着点がここだという皮肉であり、結末に思えてしまうところまで含めて『このすば』だ。しかもそれを第2期の初っ端に持ってくるのだ。金崎貴臣監督の飛び道具的な演出の真髄が発揮された瞬間と言っていいだろう。

そして第2期2話では文字通りの飛び道具が、アクアのチャームポイントをかすめていく。

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大泣きしながら必死に逃げるアクアの輪っかを射抜くカズマの狙撃。スローモーション→通常速度へ戻すダブルアクションの凝った設計で、カズマの恨みつらみが放たれた矢に乗り移り、まるで的が二つあったかのような、これまで迷惑をかけられてきた「輪っか」への意趣返しのような、穿った見方をしてしまいそうなシーンになっている。

他にも表情を映さず輪っかだけで語らせるコミカルな広角であったり、わざと人物に被せて「邪魔」という意図に使ったり、用途は様々。女神の輪っかと金崎演出、今一度ご注目あれ。

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