boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『らんま1/2』再見 傑作エピソードメモ(前半戦)

機会あれば一から、と思っていた『らんま1/2』を観返していた。『らんま1/2』は高橋留美子の同名マンガを原作にしたTVアニメで、第1期と『熱闘編』を合わせると全161話に及ぶ長期シリーズだ。早乙女乱馬と許嫁である天道家の三女・天道あかねを中心とした原作のドタバタ&ラブコメテイストを重要視する一方、アニメ版は『うる星やつら』同様に当時の若手を中心としたクリエイターの個性が輝いたシリーズでもある。その中から個人的に気に入ったエピソードを抜粋し、印象を書いておきたい。

■『らんま1/2』 第1話「中国から来たあいつ! ちょっとヘン!!」

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脚本/浦沢義雄 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督中嶋敦子

記念すべき初回放送。最高の中嶋作画、マスタピースと呼んで差し支えない出来だが、異彩を放っているのは演出だ。るーみっくわーるど的なギャグ(ちゃぶ台返しなど)を押さえつつ、原作にはない天道早雲の主観ショットによる"天道家案内"があったり、舞台の中心になる居間の描写を厚くしたりと、『らんま』放送の前年に公開された望月智充監督『めぞん一刻 完結篇』の雰囲気が色濃く残っている。ある意味、高橋留美子原作アニメの歴史を感じられるところかもしれない。女らんま役・林原めぐみの非常に初々しい演技も聴きどころ。作画的ベストカットはタッチの入れ方が絶妙な介抱されて目覚める乱馬。

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■『らんま1/2』 第9話「乙女白書・髪は女のいのちなの」

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脚本/井上敏樹 絵コンテ・演出/高木真司 作画監督遠藤麻未

乱馬と良牙の決闘の最中、あかねの長い髪がバッサリ切られてしまう場面から始まるショッキングな話数。あかねの乙女心を彩る紫陽花をシュールな画面(怒りの鉄拳でへこんだ電柱)に落とし込むアイディアはアニメで足された部分だが、紫陽花の味わいがじつにいい。Bパートでは良牙が子ブタの「Pちゃん」化となってあかねの胸に抱かれる。若き日の松本憲生ら作画陣の奮闘も見逃せない。

 

■『らんま1/2』 第13話「スケバンの目に涙? ルール無用の格闘新体操決着」

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脚本/高屋敷英夫 絵コンテ・演出/望月智充 作画監督中嶋敦子

「らんま」名物・謎格闘対決の序章にして、久能小太刀がリング狭しと暴れ回るアクションスペクタクルな一話。立体的なカット割りや独特の「間」を作るコンテワーク、そして「色気がない」とよく乱馬に言われるあかねの貴重なネグリジェ姿は望月智充のフィルムだと実感させてくれる。演出とフェティシズムの両立を支える中嶋敦子の修正、とくに横顔の解釈が素晴らしい。女性アニメーターの系譜で言えば、後の千羽由利子To Heart』に繋がっている気もする。 

 

■『らんま1/2』 第15話「激烈少女シャンプー登場! ワタシ命あずけます」

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脚本/隅沢克之 絵コンテ・演出/もりたけし 作画監督遠藤麻未

佐久間レイのキュートなカタコト喋りでお馴染み・シャンプーが初登場。初期シャンプーの魅力は女らんまを付け狙う執念深さと乱馬にささやきかける「我愛你」の極端過ぎるギャップであり、アニメは原作以上にそのスイッチを誇張している。終盤の大きな月をバックにした追いかけっこはふたりの関係性を表した象徴的なシーンだ。シャンプーの特長である身体性・アクション性・求愛性を登場回で余すことなく出し切っているのだから凄い。

 

■『らんま1/2 熱闘編』 第7話「さらわれたPちゃん!」

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脚本/井上敏樹 絵コンテ・演出/古橋一浩 作画監督遠藤麻未

「らんま」古橋一浩演出回の"無双"ぶりは最早語り草だが、それは緩みのない画面構成と飽きさせない工夫によるところが大きい。聖コルホーズ学園格闘スケートの黄金ペア・三千院帝と白鳥あずさが持つ凶悪なアクの強さを引き立てるペア格闘パートはスピード感とポージングで攻める、まさに嵐の如き演出。女らんまが帝にキスされてしまう固まり具合も楽しい。

 

■『らんま1/2 熱闘編』 第8話「危機一髪! 死霊の盆踊り

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脚本/松井亜弥 絵コンテ・演出/高木真司 作画監督中嶋敦子

帝必殺の「死霊の盆踊り」をコマ送りし、急接近する乱馬とあかねのキス未遂を注視し、自分の所有物すべてにおやすみと言ってまわるあずさの様子に背筋を冷たくして試合本番に向かうという何とも忙しい話だが、まさに初期傑作回と呼ぶに相応しい回。恐ろしいことに後半のあずさコレクション部屋パートはアニメの追加設定であり、セルで描かれたプロップの量に眩暈がするが、ゆえに愛されているのだと分かる。

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余談だが、白鳥あずさの行き過ぎた「可愛い」趣味は『キラッとプリ☆チャン』に登場する金森まりあに響く遠いエコーだろう。泰山の名は、高橋留美子

 

■『らんま1/2 熱闘編』 第21話「あかねの口びるを奪え」

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脚本/戸田博史 絵コンテ/石田昌久 演出/小林孝志 作画監督中嶋敦子

天道あかねが魅力的な話数」で5本の指に数えられる、あるいはナンバーワンに挙げてもいい、あかねのあかねによるあかねのためのジュリエットゲーム。思いを馳せるあかねの表情、ジュリエットに扮したあかねを飾るきめ細やかな作画、反射する涙の意味。 石田昌久*1の担当回は少ないが、本作でもたしかな痕跡を残している。「バッカみたい」と言って微笑むフェンス越しのあかねは、乱馬主観の「かわいくねえ」カウンターカット。ガムテープ越しのキスとフェンス越しの笑顔、テーマの膨らませ方が素晴らしい。

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■『らんま1/2 熱闘編』 第25話「くしゃみ一発愛してナイト

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脚本/横手美智子 絵コンテ/小島多美子 演出/中村憲由 作画監督/数井浩子

本来、「脚本」を語る行為の多くは思い込みだ。そう見えたものが、じつはプロデューサーの口添えだったり、監督や演出の匙加減で変えられたものだったりする。完成したフィルムから脚本を抽出するのは困難きわまる行為なのだ。だが世には、時にそれを承知で語らせて欲しいという場合が起きる。悔しいが、起こってしまう。「くしゃみ一発愛してナイト」はその類のエピソードだ。

 「……手首細いな、アイツ」

原作にない乱馬のこのセリフが横手美智子*2の手で書かれていたとして、どういった思考を巡らせれば出てくるセリフなのか。おそらく、乱馬とあかねの心の襞をじっと見つめて見つめて、見つめすぎて風邪をこじらせないと出てこない。「天道家のいちばん静かな夜」を書きたかったのか、男と女がひとつ屋根の下にいることを意識させたかったのか。答えは、各々胸の中に。

 

■『らんま1/2 熱闘編』 第31話「私ってきれい? 乱馬女宣言」

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脚本/横手美智子 絵コンテ・演出/古橋一浩 作画監督/数井浩子

のっけから炸裂する松本憲生! 頭の打ち所が悪く、心まで女性化してしまった乱馬とあかねの戸惑い。ギャグのテンポと気持ちの置き所がないあかねの表情を切り取る演出がみごとで、横手×古橋×松本という脚本演出作画すべてが奔っている回だ。

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また冒頭、台所のかすみパートはフレーム外の動きまで想像させる高度な芝居作画。自然なカメラの移動と奥行きへの意識。人物がそこに生きていると実感させるアニメートとは、こういうものだろう。

 

 ■『らんま1/2 熱闘編』 第52話「乱馬のママがやってきた!」

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脚本/菅良幸 絵コンテ/境屋夢吉 演出/よしだのどか 作画監督中嶋敦子

森川滋(紅優)の変名であろう境屋夢吉がコンテを切ったことも関係しているのか、デフォルメがいつも以上に弾けており、賑わいのある画面、「Pちゃん遊び」に代表されるアイディアなど、いつもとは違う方向にかっ飛んだ喧騒行進曲。アニメオリジナルの伏線的"母"回である意義が不意打ちのように落ちてきたタライで忘れ去られる、そんなお話。

 

 ■『らんま1/2 熱闘編』 第62話「あやうし! Pちゃんの秘密」

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脚本/久島一仁 絵コンテ・演出/古橋一浩 作画監督中嶋敦子

忘れちゃいけないあの人、アニメーター時代の石田敦子を語るときに外せない話数のひとつがこれだ。

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品のある座り方をするあかねの芝居や乱馬を強引に振り向かすリアクションのタイミング、石田イズムを存分に味わえるファーストシーン。さらに古橋×中嶋のゴールデンコンビ回に外れなぞあろうはずもなく、あかねにPちゃんだとバレたくない良牙の涙ぐましい努力、裏でサポートする乱馬との二人三脚は眺めるに楽しく、謎のPちゃんダンスの二段オチでもうひと笑いという、シリーズ中盤を彩る名エピソード。

 

■『らんま1/2 熱闘編』 第69話「乱馬なんか大キライ!」

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脚本・絵コンテ/澤井幸次 演出/浦田保則 作画監督/磯野智

澤井幸次監督期の最後を飾るのは、やはり本人しかいない。桜の花びらが舞う出会いと別れの季節を描いた一篇は、早乙女親子が来て二年のお祝いに作っていたケーキを滅茶苦茶にされたあかねが、今度ばかりはと家を飛び出してさあ大変。家族総出であかねを探しにいくという筋立てで、「天道家」に焦点を当てた抒情的な作りになっている。縁側を映す固定カメラ、居間でじっと皆の帰りを待つかすみ、逃げ慣れた夜の街を駆ける八宝斎(「あかねちゃーん」と叫ぶ場面はトトロの「メイちゃーん」っぽい)、「らんま」世界のいつも通り、つまり「日常」を普段とは違う角度で撮ったドキュメンタリーと言った方がいいかもしれない。しかしこれはアニメーションであり、そこでしか描けない風景もある。

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このかすみがテーブルに伏して寝ている居間を庭から撮った密着多段引きのカットは、アニメの持つ質感や技術が結集されたものだ。実際にカメラを持って回り込んでもこうはならない。縁側のガラス戸や障子、奥に見える襖といった「素材」に、スライドの引き速度に、何らかの意味を込めることができるのはアニメーションだからこそだ。澤井幸次監督の矜持、愛情のなせる業だろう。「天道家」最高のワンカット。

序盤の山内重保回や松本作画回を中心にまだまだ挙げたい話数はあったが、それはそれとして(キリがないので)。後半戦へ続く。

 

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  • 発売日: 2013/06/04
  • メディア: Blu-ray
 

*1:「らんま」放送中の1990年末、過労により早逝。

*2:TVアニメ『機動警察パトレイバー』でデビューした年に『らんま1/2』の脚本を執筆していることになる。Aパートの映画館のくだりはレイバーの太田っぽく、色々とヤング横手の勢いが余っている。