boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『ルパン三世 PART6』大空スバル出演回 

先日放送された『ルパン三世 PART6』17話 「0.1秒に懸けろ」にホロライブプロダクション所属のバーチャルYouTuber「大空スバル」が出演していた。これは人気VTuberがレギュラー出演する番組「プロジェクトV」内で行われた「ルパン三世の声優権」を争奪するという企画の優勝権利。

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クレジットにはコスプレイヤーとして載っていたが、実際の出演シーンはごくわずか。オフ台詞で「来たー!」と叫んでいたのがそうだろうと思う。口パクを合わせなくていい配慮が優しさだ。大空スバル回だからというわけではないにしろ、内容も凄かった。特殊な警備システムを掻い潜ってお宝を盗むという王道の筋ながら、熱烈なルパンファンであり、いわゆる「ガチ恋」「ルパン単推し」のゲストキャラクターが登場したからだ。

警備会社「ワンティックセキュリティーズ」の若きCEO、ワン・リンファ。

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彼女が「ルパンでも破れないセキュリテイ」という意味で名付けた「Lシステム」(Love Lupin system)の真価を公表するため、本社タワーで待ち構えるとルパンに逆予告状を出し、挑発されたルパンが対抗手段として複数の電源を同時に落とす策を考案する。ルパン一味総出で訓練にあたるが、衝突を繰り返し……肝となっているのは、「見えない信頼」だ。ジャミングにより連携が崩される寸前に陥るも、長年の付き合いの賜物だろう、絶妙の機微(ワンティック!ワンティック!)で皆が同時に動き、電源を落とすことに成功する。

リンファのいる部屋に辿り着いたルパンは彼女の背中越しに声を掛ける。だがリンファは振り向かない。

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「アンタは素顔の方がずっといい」と言ってリンファのメガネを外したルパンは、彼女が振り向いたときには既に姿を消している。結局、リンファはルパンを直に見ることはなかった。偶像(ルパン)は偶像のまま、立ち去ったわけだ。

モニター越しの恋は虚構なのか、あるいは現実だったのか――。つまり、一見非常にシュールだが、「バーチャルYouTuber」の偶像性に通ずる、現代的なテーマに踏み込んだ内容だったのだ。ルパンはリンファが心に描く「ルパン像」を裏切ることなく、虚構に還った。「大空スバル」というエッセンスは、そこへ垂らされた一滴の"本物"であり、虚構と現実を巡る奥行きの一端だ。メガネを外すというステレオタイプな行動も、ありのままの「素顔」という台詞を強調したかったからかもしれない(メガネフェチには残念でしかないけれど)。

脚本はハードボイルドの典型とも云える15話「祝福の鐘に響けよ、銃声」を任された金田一明。『体操ザムライ』がそうだったように、シリアスとギャグの振れ幅が大きく、器用にまとめている印象もある。「0.1秒に懸けろ」はキャリアの異色作となるのか、それとも……記念すべき「大空スバル出演回」担当脚本家として要注目(?)。

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