boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『であいもん』のO.Lとアイディアメモ

和菓子と煎茶のいい香りを漂わせながら、人情の機微に触れるドラマ。TVアニメ『であいもん』は色合いも風情も、そして演出も端正で落ち着いた作品だった。派手さはないが心に残る、そんな志向で作られたアニメだったように思うが、あまり見掛けない、工夫を凝らしたO.L(オーバー・ラップ)があったので、少しだけ触れておく。

O.Lはシリーズ中かなり使われているが、挙げておきたいのは第3話「夏宵囃子」終盤の一場面。

和(なごむ)から名前を呼ばれて父親の姿を不意に思い出す一果(いつか)の振り向きにO.Lが指定されている。通常、シーン変わりや時間経過に使われる撮影効果を、振り向きのつなぎに重ねるというアイディア。シンプルだが、F.O+F.I(フェード・アウト/イン)のタイミングが素晴らしく、たいへん印象的な振り向きに仕上がっている。

同じ発想で、かつO.Lを連続させたものが第12話「春暁に鯛」の一果が和とはぐれたと思ってしまうシーンだ。

これも振り向きの最中にO.Lが入り一果のアップ、そして再びO.Lして視線の先に和を見つけるという流れ。第1話冒頭で和を父親だと勘違いして駆け寄った一果のリフレインであり、今度は父親じゃない、和自身を探していた一果というストーリー上の仕掛けだが、O.Lの使い方ひとつでこんなにもドラマチックな演出になるという見本じゃないかと思う。

そもそもO.Lとは消えていく(F.Oしていく)現在の画面に重なって、次の画面が現れてくる(F.I)撮影のこと。『であいもん』と相性が良いのは、それが一果の父親像とまさに"重なって"いるからだ。父親がいなくなり、ポッカリと空いた場所に和が家族として徐々に浮かび上がってくる。その一果の心模様、物語の中心事項とO.Lの効果はベストマッチ。もしかしたら別段、変わったことをしていると言うほどじゃないのかもしれない。しかし、こうした原作の芯を汲み取った演出の心配りは、やはり嬉しいものだ。