boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

話数単位で選ぶ、2023年TVアニメ10選

歳末の慣例行事、年の瀬のアニメブログ企画「話数単位で選ぶ」に今年も参加。干支が一周しても、企画はつづくよ、どこまでも。企画主旨・集計はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。

以下、簡易コメント付きでリストアップ。

■『お兄ちゃんはおしまい!』第1話「まひろとイケないカラダ」

脚本/横手美智子 絵コンテ・演出/藤井慎吾 作画監督/今村亮

ちょっとアブノーマルな性転換モノの原作を藤井慎吾監督がアニメ化。盗撮風構図の多用、男→女への変身と画面上の意味を込めた二重”境界”のギャップ、フェティッシュでコミカル、あの驚きのエンディングへ突入する流れも初回ならでは。文句なし本年度ベスト第1話。

 

■『トモちゃんは女の子!』第8話「夏祭りの夜/二人の距離感」

脚本/清水恵 絵コンテ/小林一三、駒宮僅 演出/塚田拓郎、駒宮僅 作画監督/駒宮僅、谷口元浩、高星佑平、中和田優斗、二宮奈那子、赤尾良太郎 総作画監督谷口元浩

淳一郎が智への感情の変化を自覚する夏祭り、その心情の変化に敏感なみすず視点で進行する後半という構成もいいが、Bパートの主役は数々のモチーフを駆使し、叙情的なレイアウト、ライティングに個性を感じさせる演出の瑞々しさだろう。これほど際立った仕事をする駒宮僅とは何者か。要注目のひとりだ。

 

■『ツルネ -つながりの一射-』第12話「繋がりの一射」

脚本/横手美智子 絵コンテ・演出/山村卓也 作画監督門脇未来 総作画監督/丸木宣明

清冽な試合会場の空気、ピンと張り詰めた極限の緊張感。全神経を次の一射に集中させる、圧倒的な描写力と画面の張力。「繋がり」をテーマに共鳴した皆の思いは、京都アニメーションを取り巻く世界そのものだったようにも思える。暗く鈍い感情に支配されていた二階堂永亮の”解放”はその象徴だったのかも知れない。

 

■『スキップとローファー』第6話「シトシト チカチカ」

脚本/米内山陽子 絵コンテ/篠原俊哉 演出/平向智子 作画監督/天野和子、小島明日香、田中未来、中山みゆき、斉藤和也、岩崎亮 総作画監督/梅下麻奈未

美津未と志摩聡介のギクシャクをどんより重い梅雨の空模様に落とし込み、紫色の空に湿度の上がった恋模様が走り出す。ついに美津未の物語が動き出すのか、そんな期待と予兆を感じさせるラストシーンの余韻が堪らない。篠原俊哉恒例のプロップ、ポッキーも見どころ。

 

■『アイドルマスター シンデレラガールズ U149』第11話「大人と子供の違いって、なに?」

脚本/村山沖 絵コンテ・演出/小林敦 演出協力/廖程芝 作画監督/井川典恵、栗原裕、明滝吾郎、岡崎滉、槙田路子、須川康太、矢永沙織、佐々木啓悟、高妻匠 総作画監督/井川典恵

実像と鏡像の間を彷徨う橘ありすによる、都会の中の「鏡の国のアリス」。非常に手の込んだ反射や映り込みが印象的に配置され、金魚まで出てくるとさながら押井守の世界に思えてくるが、そこはアイドルマスター。どこぞの迷宮物件とは違い、救いの涙も、優しさもある。一安心だ(?)。

 

■『名探偵コナン』第1089話「天才レストラン」

脚本/浦沢義雄 絵コンテ/加瀬充子 演出/吉村あきら 作画監督/津吹明日香、牛ノ濱由惟 作画監修/須藤昌朋

「駄菓子のすもも漬」「思い上がり」「オムライスの死体」など、のっけから理解を拒む謎のキーワードが頻出し、「地獄の特製お子様ランチワールド」と名を変えた浦沢ワールドが展開されるアニメオリジナルエピソード。白昼夢に襲われるかのような不可思議きわまる話にもかかわらず、キレの良いアクションが繰り出される豪勢なパートもあり、さらに混乱すること請け合い。『名探偵コナン』の懐の深さをあらためて思い知らされる一話だ。

 

■『呪術廻戦 懐玉・玉折/渋谷事変』第41話「霹靂-弐-」

脚本/瀬古浩司 絵コンテ・演出/土上いつき、伍柏諭、山崎晴美 作画監督/山﨑爽太、矢島陽介、石井百合子、青木一紀

以前から作画好きを公言している原作者・芥見下々の器を借りた宿儺vs魔虚羅の一大決戦は、今年一番といっていい作画回となった。呆気にとられるほど膨大な表現の洪水であり、原作以上に破天荒に描かれた宿儺の呪術はTVアニメの臨界点だったかも知れない。また、死地に向かう七海建人で引く静けさもいい。動と静、それぞれについて回る「死」の気配。『呪術廻戦』の醍醐味はそこにあるのだから。

 

■『陰の実力者になりたくて!2nd season』第7話「大切なもの」

脚本/加藤還一 絵コンテ・演出・アクション作画監督/中西和也 作画監督/陳達理 総作画監督/飯野まこと

本シリーズにおいて、中西和也監督はシャドウであり、アルファだ。全話コンテの達成、アクション作監、演出の兼任など様々な責任を負いながら、同時に個性のバルブも開く。7話は「特定の登場人物と観客が共有する秘密」のすれ違いが一度ピークに達する回。落ち込むアルファのかわいらしさ、空回りするシドの必死さと情けなさ。笑いあり涙あり、そこに中西和也あり。藺相如もびっくりの「完璧」だ。

 

■『MFゴースト』第8話「音声カウント」

脚本/稲荷明比古 絵コンテ/高橋成世 演出/安藤健 演出チーフ/濱田翔 作画監督佐藤哲也、長谷川圭、石井しずく 総作画監督恩田尚之坂本千代子、油井徹太郎

原作者をして「嫉妬してしまうレベル」と評された恩田尚之のキャラクターデザイン・作画力と目の離せないレースシーンの相乗効果が素晴らしかった本作。第8話は伝説のダウンヒラーを継ぐ男・片桐夏向渾身のコーナリングをノリのいい劇伴、スーパースローで盛り上げる演出のアドレナリンが一気に増幅。とくに「ヤジキタ兄妹」をオーバーテイクするパートは格別の仕上がりで、解説・実況のテンションが視聴者に乗り移ってくるようだった。

 

■『川越ボーイズ・シング』第8話「いつかのアイムソーリー」

脚本/川越学園文芸部 絵コンテ・演出・作画監督・原画/武内宣之

練習中に突然強盗が乱入してくるギャグのような前回の流れから、何故だか武内宣之回が降って湧いてくる。違うアニメを観ているのか?と疑いたくなってしまうくらい、凄まじい隔たりに困惑してしまったが、スタイリッシュなトメや超アップを使ったアヴァンギャルドなカッティング、アオリの切れ味は最高で、頭に大きなはてなを浮かべたまま観る至高の武内回という体験はおそらく二度とないだろう。サブタイトルがやたらと格好良いのもポイントだ。

他、候補としていた話数の一覧。

■『BanG Dream! It's MyGO!!!!!』第7話(なんで春日影やったの!?)

■『事情を知らない転校生がグイグイくる』第4話(原作に対するアニメ的足し算)

■『天国大魔境』第10話(五十嵐海&竹内哲也回)

■『ONE PIECE』第1072話(ギア5に石谷恵)

■『英雄教室』第2話(中野英明のパロディ炸裂)

■『久保さんは僕を許さない』第11話(沖田博文デート回)

■『ゾン100〜ゾンビになるまでにしたい100のこと〜』第4話(大島克也回)

■『薬屋のひとりごと』第4話(ちな&もああん回)

■『葬送のフリーレン』第8話(言っておくけど私、強いよ)

2023年は話題作が10月期スタートの新番組に集中した向きもあったが、蓋を開けてみると、あまり注目していなかった『MFゴースト』が尻上がりに調子を上げていき、穴馬的に盛り上げてくれたり、寿門堂制作の『ポーション頼みで生き延びます!』のチープさに逆説的な魅力を感じてしまったり、大粒小粒揃ってこそTVアニメだと深く感じ入ったクールだった。また、『百姓貴族』『オチビサン』『幼女社長R』といったショートアニメ群も楽しく、例えば『幼女社長R』21話「でんとう」は『美味しんぼ』の海原雄山を模したキャラを「息子」である大塚明夫が演じていた。リストには挙げていないが、こういったアニメも記録に残しておいた方がいいのかも知れない。

個人的に奇妙な執着を覚えてしまったアニメでいうと、『Buddy Daddies』がそうだ。殺し屋ふたりの子育て・バディもので、アイディアはいいが肝心の殺し屋部分をイマイチ上手く扱い切れていない。そんな風に思っていたのだけど、銃撃戦を『DARKER THAN BLACK』の岡村天斎に任せる差配であるとか、ロバート・ベントン監督の名作『クレイマー、クレイマー』のオマージュであろう繰り返し登場するフレンチトースト、P.A.WORKS出身の大東百合恵が手掛けるエンディングアニメーションの愛らしさなど、語弊はあるが欠点に目を瞑って贔屓したくなるアニメだったのだ。

飛び抜けていい話があるわけでなく、アイディアやテーマの結実には疑問も残る。しかし執着したい作り手と要素がある。そういう珍しいタイプの記憶に残しておきたい作品になったなと思う(『クレイマー、クレイマー』が思い出の映画だったということも多分に関係している)。

それでは、この先もいろいろなアニメに出会えることを願いつつ。来年もTVアニメを観よう!

『めぞん一刻』89話の名脚色

長くテレ玉で再放送中の『めぞん一刻』が佳境を迎えている。

響子を巡るライバルの三鷹が大いなる勘違いによって明日菜とめでたく婚約し、これで一段落かと思いきや、お次は五代の彼女(だと自身では思っている)こずえの活躍(?)でまた一波乱……というところから始まるのが89話「結ばれぬ愛! 五代と響子今日でお別れ?」だ。

この話数にはシリーズの中でも一二を争うであろう、素晴らしい脚色がある。それは一刻館の庭先で五代がこずえにされたキスの弁解を必死に行う場面だ。

五代の「単純なテ」を警戒しながら、横目でちょっと可哀想なものを見るようなニュアンスの響子。この後に行う“いたずら”を想定した表情芝居であり、原作と比べるとアニメ版の解釈がより響子にフォーカスしたものだと分かる。

そして五代に目をつぶらせ、キスをすると思わせておいて、ほっぺたをつねる。何を期待していたんだと強制的に目を覚まさせるわけだが、音無響子音無響子たる所以は、ここからだ。

原作では目をつぶった五代の次のページで、いきなり響子からキスされている大コマに移るという“唐突感”で読者を驚かせているのに対し、アニメはもう一度“いたずら”を成功させるため、音で勘付かれるわけにはいかぬとばかりにサンダルを脱ぎ、まじまじと五代の顔を眺めてから響子が背伸びをする。やろうと思えば原作と同じく「不意を打つ」見せ方で通せたはずだが、おそらくアニメの意図としては、五代ではなく響子の側に寄り添い、その様子を丹念に描写することで面倒くさいだけではない、音無響子の愛らしさ、新たな魅力を引き出したかったのだろう。作り手の作品への入れ込みが伝わってくるようだ。

カット割りもいい。五代が引っ掛けようとした際、響子の背伸びをするカットがあったが、今度は上履きを脱いだ状態で足元を見せている(原作では脱いでいない)。いわばその「差異と反復」を最大限活かした格好であり、履物を脱ぐ、つまり「建前と本心」という意味合いにも含みをもたせた作りがじつに憎い。さらに細かいのは、突然のキスに呆然と立ち尽くす五代をよそに、一刻館へ駆け込む響子の上履きを置く芝居だ。サンダルを持ったまま部屋に入ってしまうほど熱に浮かされているわけでもなく、一定の冷静さを保っている。その客観的な視点が嬉しさ満点の五代とのギャップを生む。手抜かりのない演出の気配りだ。

作画監督は毎回抜群の修正が光る中嶋敦子、絵コンテ・演出/澤井幸次。『めぞん一刻』の終盤は澤井、鈴木行チーフディレクター吉永尚之がローテーションで入魂といってもいいだろう見せ場のある回を作っており、それは後の『機動警察パトレイバー』や『らんま1/2』に繋がっていく。人気作の監督を務めているにもかかわらず、なかなか語られる機会のない作り手のすぐれた仕事。これからも折を見て書いていきたい。

 

話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選+京都な4本

歳末のアニメファン企画、年間のTVシリーズの中からベストエピソードを選出する「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」(昨今はNetflixのシリーズも含めているけれど)エントリ。参加サイトの一覧など詳細は、昨年に引き続き「aninado」でぜひ。

以下、コメント付きでリストアップ。

■『86-エイティシックス-』第22話「シン」

脚本/大野敏哉 絵コンテ・演出/石井俊匡 総作画監督川上哲也、杉生祐一 作画監督/成川多加志、真壁誠、伊藤美奈、波部崇、小川莉奈、稲田正輝、樋口香里、安田京弘 制作進行/西原雛子

クオリティアップの為の放送延期が話題をさらったが、その甲斐あって石井俊匡演出の極北といえる最高のクライマックスにたどり着いた。画面の「余白」がドラマの「空白」を埋める、究極に近いアスペクトレシオのコントロール。作り手の真髄を見た思い。

 

■『明日ちゃんのセーラー服』第7話「聴かせてください」

脚本/山崎莉乃 絵コンテ・演出/Moaang 作画監督/川上大志 制作進行/本田守

「君を忘れない 曲がりくねった道を行く」

スピッツの歌に秘められた青春期の何とも言えない気恥ずかしさが、とある少女とギターに託された。きっとだれにでも、「想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる」と思って疑わないころがあったんだ、と錯覚させてしまうだろう筋立ての罪深さ(?)も心地良い。

 

■『王様ランキング』第21話「王の剣」

脚本/岸本卓 絵コンテ・演出/御所園翔太 演出補佐/田中洋之、総作画監督/野崎あつこ、作画監督/金採恩、荒尾英幸、山本祐子、鴨居知世、野田猛、島袋奈津希、野崎あつこ、御所園翔太、オ スミン、河内佑、土上いつき、桝田浩史 原画作画監督/斎藤美香、久慈陽子

わんぱく王子の大蛇退治』のようなクラシックなスタイルのアニメを現在のベスト・アニメーターたちが最新の技術で思う存分動かし尽くす――そんな思考実験が現実のものになったとしたら。その回答に用意したいエピソードのひとつが、これだ。

 

■『ONE PIECE』第1015話「麦わらのルフィ 海賊王になる男」

脚本/山崎亮 絵コンテ・演出/石谷恵 作画監督/森佳祐、伊藤公崇、小島崇史、山本拓美

しなやかで熱い。きわめて高い熱量を持っているのに、鮮やかな映像感覚で観客を魅了する。才気煥発という言葉はこういうフィルムを作る人間に当てられるべきなんだろう。まさに東映「最悪の世代(超新星)」の台頭。


■『サイバーパンク: エッジランナーズ』第6話「Girl on Fire/炎に包まれて」


脚本/宇佐義大大塚雅彦 絵コンテ・プロップ設定・キャプチャ原図/五十嵐海 演出/金子祥之 作画監督/五十嵐海、菅野一期

バリキオスこと荒井和人氏の「キャラデザの『向こう側』に行ける力量が凄い」評が印象的な五十嵐海成分100%の極濃ミックスジュース。常識的な社会の枠を飛び出す作品のさらに外へと駆け抜ける気勢に、ひたすら息を呑む。


■『リラックマと遊園地』第6話「遊園地の秘密」

脚本/角田貴志、上田誠 演出/小林雅仁 チーフアニメーター/根岸純子 クリエイティブアドバイザー/コンドウアキ

上田麗奈の自然体な演技をリラックマで堪能できるとは! いまの自分に悩むスズネが、ふと立ち止まって過去の自分をみつけるシーンはストップモーションの特性(静止と連続性)と相性バッチリ。線画を含め、多様な「回想」のバリエーションも楽しい。

 

■『アオアシ』第5話「オレンジ色の景色」

脚本/横谷昌宏 絵コンテ・演出/長沼範裕 作画監督/長谷川早紀、井川麗奈

紀子からの手紙を読むパートは原作でも屈指の名場面だが、アニメは劇伴と巧みなカットバック、園崎未恵(紀子)熟練の語りによって"威力"倍増。じわじわと感情を揺さぶり、涙を枯らした後は揺らがぬ決意の表情でピリオドを打つ。紀子の横顔修正、話数全体のレイアウト力も素晴らしい。

 

■『Extreme Hearts』第11話「Run for Victory」

脚本/都築真紀 絵コンテ/西村純二、吉田徹 バスケシーン絵コンテ協力/夢川智久、演出/管野幸子、演出補佐/にわ素彦 作画監督/橋本貴吉、平田賢一。鞠野黄英、三橋美枝子、ジョンヒジン、河本美代子、野﨑将也、小川浩司 総作画監督/新垣一成、奥田泰弘、アクション作監/吉田徹

「いいからテーピングだ!」という神奈川No.1センターの幻聴がするほど、『スラムダンク』オマージュを横断的(海南戦、陵南戦、山王戦、桜木+赤木、沢北的スーパープレイetc)に行いながらテンポ良く、かつスローモーションの多用で見せ場を作りつつ纏め上げる匠の手腕に脱帽。レイアップに行く際の腕の伸ばし方など、"それっぽさ"も細かい。


■『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』第10話「DIYって、どんぞこ?・いんぽっしぶる?
・ゆうきとやるきがあればなんでもできる!」

脚本/筆安一幸 絵コンテ/笹木信作 演出/中込健人 作画監督/吉田南、茂木海渡、福永智子、片出健太 作画監督補佐/酒井愛理、加藤けえ

「話数単位」常連のベテラン、笹木信作コンテを新鋭・中込健人が演出するエピソードは、先輩の思いを後輩が受け継ぐ座組みに相応しい内容で、だれの思いがだれに向けられ、だれを見守ってくれていたのか。シンプルなテーマを過不足なく、必要な手数で十二分に伝えきる。見上げた先にいるぷりんを、ついにせるふが見つける。ただそれだけのことをこれほど感動的に描く、視線の演出術。

 

■『ぼっち・ざ・ろっく!』第12話「君に朝が降る」

脚本/吉田恵里香  絵コンテ・演出/斎藤圭一郎 作画監督/けろりら

妙な話かもしれないが、稀に「作り手の青春」を垣間見る作品がある。才華輝く若手が中心となって愛情を注ぎこみ、遊び心いっぱいにアニメを作っているな、と感じるシリーズのことだ。例えば『けいおん!』だったり、『アイカツスターズ!』もそうだったと思う。そんな彼らの全力投球を受け止める快感は何ものにも代え難い。「ナイスボール!」。キャッチャーはそう声を掛けてボールを返すのみだ。

 

番外編・京都な4本

■『平家物語』第1話「平家にあらざれば人にあらず」

■『舞妓さんちのまかないさん』第33話「豚汁」

■『であいもん』第3話「夏宵囃子」

■「モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜」第7話「彼と奏でるふたりの調べ」

「彼と奏でるふたりの調べ」はイレギュラーな形式(実写6本+アニメ1本シリーズ)だったが、手のひらから温もりが伝わってくる素晴らしい小品で、京都アニメーション出身・山田尚子監督の面目躍如。「平家物語」に「舞妓」「和菓子」という京都の舞台性を生かした作品群が揃っていたのも面白く、いずれも手つきは繊細、人との距離感をはかり、微妙なグラデーションを描いたもの。これも一種の「京都っぽさ」なのだろうか。

 

「話数単位」企画には、意外と頭を悩ませるアニメがある。それは『銀河英雄伝説 Die Neue These』で第2シーズン以降、劇場公開後に順次配信される流れになっているが、年の後半になると配信が年を跨ぐエピソードも出てきてしまう。すると必然、最初の「放映年」を重視したい気持ちと、だれに咎められるわけでもないのだから「TV放送/配信年」でいいのだという心がせめぎ合う(今年はFODで先行配信された『平家物語』が似た状態にあった)。これは参加者それぞれの線引きでしかなく、たぶん「どちらでもいい」案件なのだけど、『舞妓さんちのまかないさん』のようにEテレ放送前にNHKワールドでかなり先んじた配信が行われ、オープニング映像まで異なる場合、さらに難しくなる(ワールド版のインストゥルメンタルに慣れた後に歌つきのオープニングはあまり嬉しくなかった)

話を少し変えて。年間を通していちばん作画的な興奮を感じたシーンは『東京ミュウミュウ にゅ~ 』の変身バンクかもしれない。元々「神作画」というミームの発祥である(といわれている)『東京ミュウミュウ』の新作にその立役者であるスタジオへらくれすメンツが再び集まり、バンク・必殺技アニメーションを手掛ける"歴史的"サプライズにクラッときてしまった。

吉成鋼アート展と化した『ヤマノススメ Next Summit』エンディングも歴史的成果物だと思うけれども、あれは毎晩美食倶楽部に連れていかれるみたいなもので、敷居を跨ぐのに勇気がいる。

他、挙げられなかったが、基本的にコンテ・演出を兼任する大島克也回(サマータイムレンダ、ラブライブ!スーパースター!! など)はどれも腰の据わった出来栄えだったし、『くノ一ツバキの胸の内』富井ななせ回も取り上げたかった。そうそう、あおきえいの各話コンテもなかなか味わい深く……とひとつひとつ思い出していくのも「話数単位」の妙味だが、続きはまたの機会に。

来年も粋なサプライズを待ちつつ、もっとアニメを観よう!

 

『であいもん』のO.Lとアイディアメモ

和菓子と煎茶のいい香りを漂わせながら、人情の機微に触れるドラマ。TVアニメ『であいもん』は色合いも風情も、そして演出も端正で落ち着いた作品だった。派手さはないが心に残る、そんな志向で作られたアニメだったように思うが、あまり見掛けない、工夫を凝らしたO.L(オーバー・ラップ)があったので、少しだけ触れておく。

O.Lはシリーズ中かなり使われているが、挙げておきたいのは第3話「夏宵囃子」終盤の一場面。

和(なごむ)から名前を呼ばれて父親の姿を不意に思い出す一果(いつか)の振り向きにO.Lが指定されている。通常、シーン変わりや時間経過に使われる撮影効果を、振り向きのつなぎに重ねるというアイディア。シンプルだが、F.O+F.I(フェード・アウト/イン)のタイミングが素晴らしく、たいへん印象的な振り向きに仕上がっている。

同じ発想で、かつO.Lを連続させたものが第12話「春暁に鯛」の一果が和とはぐれたと思ってしまうシーンだ。

これも振り向きの最中にO.Lが入り一果のアップ、そして再びO.Lして視線の先に和を見つけるという流れ。第1話冒頭で和を父親だと勘違いして駆け寄った一果のリフレインであり、今度は父親じゃない、和自身を探していた一果というストーリー上の仕掛けだが、O.Lの使い方ひとつでこんなにもドラマチックな演出になるという見本じゃないかと思う。

そもそもO.Lとは消えていく(F.Oしていく)現在の画面に重なって、次の画面が現れてくる(F.I)撮影のこと。『であいもん』と相性が良いのは、それが一果の父親像とまさに"重なって"いるからだ。父親がいなくなり、ポッカリと空いた場所に和が家族として徐々に浮かび上がってくる。その一果の心模様、物語の中心事項とO.Lの効果はベストマッチ。もしかしたら別段、変わったことをしていると言うほどじゃないのかもしれない。しかし、こうした原作の芯を汲み取った演出の心配りは、やはり嬉しいものだ。