話数単位で選ぶ、2025年TVアニメ10選
恒例のTVアニメベストエピソードを選出する「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」企画記事2025。詳細はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。
以下、コメント付きでリストアップ。
■『アポカリプスホテル』第11話「穴は掘っても空けるなシフト!」

脚本/村越繁 絵コンテ/廖程芝 演出/廖程芝、春藤佳奈、城戸康平、西願宏子、谷本頼洋 演出補佐/橋本有加 作画監督/村田駿、井上廉太、新村杏子、西願宏子、長沼智也、王國年、KAGO、岡崎滉、滝吾郎、矢永沙織、前川葵、塚本あかね、李信英、槙田路子、雷 総作画監督/野田康行 制作進行/久保貴寛
事前に予想されていた『ヨコハマ買い出し紀行』のような抒情性が――ついに発揮されたエピソードだが、これはシリーズ構成の勝利だろう。想像以上にコメディ色が強く、感慨もあれど「何でもあり」のテイストを全面に押し出したまま締めるのかと思いきや、終盤になって“ヨコハマ”を繰り出す。そう、一話限りでいいのだ。凝縮された終末の哀愁感とセンチメンタル、まさしくこの光景を夢見ていたのだから。
■『機動戦士Gundam GQuuuuuuX』第4話「魔女の戦争」

脚本/榎戸洋司 絵コンテ/荒木哲郎、鶴巻和哉 演出/荒木哲郎 キャラクター作画監督/井関修一 メカニック作画監督/浅野元
振り返ってみれば「サプライズ」こそが最大の魅力だった本作。単話の登場でありながら、決定的な印象を残した元連邦軍エース、シイコ・スガイは非常に“初代的”ガンダムキャラクターだったといえる。その穏やかな見た目と相反するスティグマ攻撃の凶暴性、しかも演出はワイヤーアクションを知り尽くした荒木哲郎――! ファンが喜ぶ急所の突き方を知り尽くしている、と受け手に思わせてくれる話があるとしたら、こういうものだろう。
■『その着せ替え人形は恋をする』Season2 第17話「8億」(第2期5話)

脚本/冨田頼子 絵コンテ/若林信 演出/小室裕一郎 作画監督/山崎淳、有間涼太、h.s、八重樫洋平 総作画監督/石田一将、山崎淳、八重樫洋平 制作進行/荒井史歩
あの「若林信」がTVアニメに携わる――たとえコンテのみの参加だったとしても、要求する内容、ハードルの高さは完成映像を見れば一目瞭然。演出・作画は勿論だが、真なる立役者はプロデューサー、あるいは進行といった制作側の人間である気がしてならない。悪魔のように細心に仕立てられたこの一話、TVで放送されたことに大感謝だ。
■『キミとアイドルプリキュア♪』第33話「どすこ〜い!アイドルデビュー!?」

脚本/山田由香 絵コンテ・演出/横内一樹 作画監督/廣中美佳、美馬健二
「日常回」の愉しさが際立つ今作にあって、意表をついてやって来た力士スポット回! 第1話から登場していた「くりきゅうた」が怪我もあって力士を辞めようしている……ありがちだけども、彼の境遇(まだまだ「関取」の地位には遠い三段目でありながら怪我負ってしまう。周りに追いていかれる不安や力士のセカンドキャリア問題など)を考えるとかなり真実味があり、また昨今の力士に対する「推し活」を知っていると非常に流行・現代的という脇見しているようで、じつは要点を突く作劇なのだ。アイドルプリキュア、侮るなかれ。
■『日々は過ぎれど飯うまし』第12話「ごちそうさま!!」

脚本/比企能博 絵コンテ・演出/春水融 作画監督/小島明日香、林珠銀、柏木彩花、小野和美、小笠原憂、中島大智、光の園・アニメーション 総作画監督/満田一、柏木彩花、林珠銀
こんなふうに作ってもいいんだ、ということをまざまざと教えてくれたアニメだ。大きなドラマはなくとも、少しずつ育まれていく友情と思い出、そこに自然と存在する「食」。日々を彩る多幸感の採集、それが写真となって、記憶のフィルムとなって残っていく。とくにこの最終回のきわまった「居心地の良さ」は唯一無二だろう。まだ終わってくれるな、そんな願いを託してみたくなる。
■『mono』第2話「メイキング・オブ・空撮!! / クラスメイト訪ねて三千里〜モトブログパート12〜」

脚本/米内山陽子 絵コンテ・演出/藍崎灯 作画監督/ミャン 総作画監督/宮原拓也
新たな出会い、そして旧友との再会。高校生と社会人それぞれの関係性や葛藤を描きながら、後味良くまとめる佳作二編の合わせ技。原作のテンポそのままに“加算”する手際はみごとで、とりわけ嬉しかったのは「七賢」(山梨銘醸株式会社)の協力(原作では「十賢」となっていた)。

「七賢」の安定した品質(価格帯も優秀)に多大な信頼を寄せる日本酒好きは多く、自分もその一人だ。この時期は新酒の「一番しぼり」がオススメ。勢いのある若手が台頭してきた本作に相応しい(?)フレッシュな一本。
■『瑠璃の宝石』第7話「渚のリサイクル工房」

脚本/藤井慎吾 絵コンテ/澤真平 演出/堀雅歩 作画監督/内山玄基 総作画監督/藤井茉由
まさかここまで豊かな作品になるとは。『瑠璃の宝石』は最上級といっていい出来栄えのアニメであり、作り手の熱量に打たれた思いがする。中でも7話は研究者を目指す瀬戸硝子の生い立ちと心情を丹念に追い、導かれる過程の美しさが好ましい話数。

唐突感も伴っていたが、個人的に面白かったのはコンテを担当した京都アニメーション出身・澤真平のメカニックが炸裂したシーンだ。数少ないメカ描写を作劇に取り入れ、愛(?)を注ぎ込む姿勢はずっと変わらない。京都時代から追いかけていた一人としてそんな澤演出をもっと、もっと見たい。
■『CITY THE ANIMATION』第12話「夏」の写真コンテスト / にーくらと道 / CITY大賞典 / お別れのあいさつ / 語彙 / 星に願いを

脚本/佐藤綾乃 絵コンテ・演出/北之原孝將 作画監督/成松健吾 総作画監督/徳山珠美
究極の 「あらゐけいいちアニメ」であり、どこを切り取っても最高峰のフィルムである『CITY』から選出するとすれば、それはもう何が琴線に触れたかだ。12話は感傷的な「お別れ」からの「乾杯」へのギャップと趣味全開のプレミア(変名)地酒ラッシュ回をアニメ化してくれたことへの喜びに尽きる。

秀鳳而今飛露喜花陽浴十四代……一体どれほど酒屋に通い、ポイントと人脈、運を重ねればこれらの銘酒が手に入るのか。マニア垂涎の稀少酒ばかり。また旨酒を飲んだときのリアクションも絶品。心底「美味い」以外の語彙が消えうせる瞬間は、たしかにあるのだ……!
■『小市民シリーズ』第16話「真夏の夜」(第2期『秋期限定栗きんとん事件』第6話)

脚本/内海照子 絵コンテ/武内宣之 演出/石川奨士 作画監督/石川奨士、中島駿、豊田暁子、秋月彩、廖菲、胡云濤、陸子煜、趙昱慧 総作画監督/具志堅眞由
近年の「神回」請負人・武内宣之が「栗きんとん事件」にやってくるとしたら瓜野高彦の心を摘み切る回しかないだろうと思っていたが、これほど徹底的で、純無垢の心を砕き、ある種の官能性まで伴うエピソードになろうとは。コンテ力(ぢから)を引き出したであろう演出の手腕も素晴らしく、〝神戸守アニメ〟としても高みにのぼったといえる。まさに、ひとつひとつ丁寧に相手の論拠を潰していく狼・「小山内ゆき」を堪能せよ、だ。
■『ドラえもん 誕生日スペシャル 天空城の秘宝!~Legend of the True Hero~』

脚本/村山功 絵コンテ/小倉宏文、大島克也、伸代のびる、善聡一郎 演出/大島克也、伸代のびる、ひのたかふみ、いのうえだいすけ 演出協力/勝間田容督、鈴木陽和 作画監督/丸山宏一、田中薫、岩永大蔵、志村隆行、山田潮美 メカニック作画監督/重田敦司
「映画缶」による各ジャンル映画への介入ものだが、今年の「誕生日スペシャル」は演出の力の入れようによって幾重にも面白さが積み上がった好例だった。それぞれの既視感を如何に巧く扱うか、キャラクターと組み合わせるか。その模範解答のような描写の連続と何より飽きさせないテンポ感!

大人の遊び心も充分で、たとえば古い時代劇の映画に入ったジャイアンは白黒のままだったが、「総天然色」によって色が付く……そんな往年の技術を何気なく笑いに含ませながらみせる。これこそ「ドラえもん」ならではのアイディアだ。
挙げるか迷ったタイトルは『BanG Dream! Ave Mujica』『銀河特急 ミルキー☆サブウェイ』『New PANTY & STOCKING with GARTERBELT』など。『カラオケ行こ! 』『夢中さ、きみに。』の特殊な放送形態も記憶に新しく、TVアニメの新機軸だなあと。

他、「話数単位」向きではないものの、意外に気に入ってしまったのが既に第6シリーズまで進んでいる『キングダム』。ほぼほぼ今泉賢一監督がコンテを切る(第6話は下司泰弘)体制が敷かれているためか型が崩れず、ここぞという場面を迎えたら澤野弘之の音楽で押し切る安定感*1。今時これほど澤野節で引っ張る作品は逆にめずらしい。りんしんの美麗修正が拝める回もあり、なかなか見応えのあるアニメ。原作はまだまだ続いているだけに、これからも楽しめそうだ。
来年への抱負でいうと、引き続きこの企画に参加できるくらいにはTVアニメを観ようと思いつつ。ジャイアンに刺激されたわけじゃないが、アニメでも時代劇、流行らないだろうか……
話数単位で選ぶ、2024年TVアニメ10選
年間のベストエピソード振り返り企画「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」に今年も参加。詳細はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。
以下、コメント付きでリストアップ。
■『葬送のフリーレン』第26話「魔法の高み」

脚本/鈴木智尋 絵コンテ/斎藤圭一郎、原科大樹、岩澤亨 演出/森大貴 作画監督/廣江啓輔、瀬口泉、新井博慧、八重樫優翼 総作画監督/長澤礼子 総作画監督補佐/藤中友里 アクション作画監督/岩澤亨
「静と動」の対比がみごとなシリーズにあって、“動”の集大成といえるエピソード。対フリーレンパートは文字通り「アクション作画の高み」を容赦なく観客に叩きつける高密度運動の連続。フェルンの自信とそれを砕く練達の技、そして必要最小限の描写で語られる信頼関係。作画に負けず劣らず、演出力も光る名場面だ。
■『ダンジョン飯』第18話「シェイプシフター」

脚本/うえのきみこ 絵コンテ/雨宮哲 演出/成田巧 作画監督/桐谷真咲、坂本俊太、中島順、ハニュー、楠木智子、斎藤和也 総作画監督/竹田直樹
本作屈指のアイディア回である「シェイプシフター」に雨宮哲を当てるスタッフィングの奇想もみごとなら、ライオスの観察力への不安をアニメ的解像度ギャグにしてみせる機転も秀抜。大鍋一杯のユーモアを調理する、工夫と陽気に満ちたアニメーション。逸品。
■『響け!ユーフォニアム3』第12話「最後のソリスト」

脚本/花田十輝 絵コンテ/小川太一 演出/山村卓也 作画監督/髙橋真梨子、引山佳代 総作画監督/池田和美
“原作に寄り添う”映像化*1の旗手だった京都アニメーションが仕掛けてき超級のサプライズであり、原作の展開を譲るはずがないと高を括っていた懐へ投げ込まれた剛速球。予定調和に留まらない挑戦的な姿勢に賛否渦巻いていたが、個人的には絶賛したい。息を呑むほど美しい「泣き作画」も京都の真骨頂。
■『忘却バッテリー』第11話「俺は嘘つきだ」

脚本/池田臨太郎 絵コンテ/徳丸昌大 演出/徳丸昌大、増田桃一郎 演出補佐/橘内諒太 作画監督/徳丸昌大、井上修一、小木曽伸吾、石塚理央、宮地聡子、中西優里香、陳品君、若狭賢史、三浦里菜、陳韋寧、飯田剛士、キム ヒョナ、パクソジョン、林梦贇 総作画監督/朴旲烈、島袋奈津希
後ろへ繋ぐ、たった一つの四球。その背景に隠された膨大な葛藤を描くことがこんなにも観る者の心を揺さぶる。アスリートのリアリティを追求しながら、アスリートに打ちのめされた人間の弱さを活写する。次第に熱を帯びていく千早瞬平役・島﨑信長のモノローグもいい。入魂の演技とはこういうものだろう。
■『ぷにるはかわいいスライム』第7話「Sweet Bitter Summer」

脚本/池田臨太郎 絵コンテ・演出/ちな Vコンテ/土上いつき 作画監督/今岡律之 総作画監督/田中彩
2000年代の水着回を彷彿とさせるハイテンポ・ギャグからワンピースの美少女と無人の画面に残る扇風機の叙情、そしてフラスコ分割の同ポ繰り返しという演出の開陳……その発想力もさることながら、何より娯楽短編としての魅力が素晴らしい。力を尽くしてアニメを楽しむ、そんな作り手の気概が嬉しい。
■『わんだふるぷりきゅあ!』第35話「悟の告白大作戦」

脚本/平林佐和子 絵コンテ・演出/広末悠奈 作画監督/廣中美佳
初回を観たときから気になっていた広末悠奈初のコンテ・演出回。冒頭から印象的な花のモチーフ、アイディアが横溢するコミカルな画作り、告白という悟の一大決心と作り手の足並みが揃い、明るさと不安、幸福と躊躇いの絶妙なバランスの上に成った一編。猫屋敷まゆのコメディエンヌっぷりも必見。
■『ガールズバンドクライ』第11話「世界のまん中」

脚本/花田十輝 絵コンテ/酒井和男 演出/平山美穂 リードアニメーター/中村有希恵、香月誠亮
圧倒的なライブパフォーマンスと新たなテクノロジーによる未踏の地点への跳躍。井芹仁菜の解放的なステージングに気圧されたまま、いつの間にか見入っていた自分に気づく。彼女たちの感情が憑依しているかのような、途方もないカメラワークはまさに超絶。鬱憤も怒りも、音楽を通して発火する。年間ベストアクトを選ぶならこれだ。
■『MFゴースト』第18話「芦ノ湖スカイラインの悪魔」

脚本/山下憲一 絵コンテ/高橋成世、阿部雅司 演出/阿部雅司 演出チーフ/濱田翔 作画監督/石本英治 総作画監督/恩田尚之
悪条件であればあるほど本領を発揮する片桐夏向の“ゴースト性”。その異次元のレーシングテクニックに驚く周囲のリアクションと映像的テンションが噛み合ったときの快感は唯一無二だ。また、この盛り上がりを受け取った19話、故・岩瀧智氏の仕事(作監込み第一原画)も覚えておきたい。
■『ダンダダン』第7話「優しい世界へ」

脚本/瀬古浩司 絵コンテ・作画監督/榎本柊斗 演出/松永浩太郎 副監督/モコちゃん 作画監督補佐/奥谷花奈
――稀に、すこし集中力を欠いていたり、何となく習慣的に観ているだけの時間の中で、ごく稀にこういう瞬間的にハッとさせられる一本に出会うことがある。思い出すだけで心が震えるような、TVアニメの真価と奥深さに打たれるような一本。夢想的なバレエのイメージと極めて現実的な金銭・暴力のカットバックが織り成す人生の凝縮。哀切、痛み、喜び、祈り。そのすべてがここにある。
■『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』第969話「時間よ、とまれ」

脚本/竹村武司 出演/斉藤柚奈、藤本風悟、石塚七菜子、岡宏明 声の出演/外崎友亮 音楽/原口沙輔
のっけから「アニメーターさんが休めたって喜んでたよ」というセリフがあったり、制作現場で用いられているストップウォッチが登場したり、やりたい放題のメタの極致を闊歩する大問題(?)連作*2。プロデューサーの許可を得て、最大35秒間完全停止した画面を放送する実験は、「映像と時間」に連関する緊張を改めて問うもの。中々どうして、侮れない。
他方、特別枠で挙げておきたいのは、放送されるやいなや話題を独占した『ONE PIECE FAN LETTER』だ。東映時代の同期だったという脚本家・豊田百香とアニメーターの森佳祐、そして一気にスターダムを駆け上がった感もある石谷恵監督によるドリームフィルム。

その物語性も遊び心も作品へのリスペクトに溢れ、じつにアドレッセンス。劇中の少女のように、この作り手たちが果たして何処に向かうのか見届けたい、そんなふうに思わせてくれる至高のフィルムだった。
振り返ってみると、まだまだ取り上げたい作品はあった。『負けヒロインが多すぎる!』『NieR:Automata Ver1.1a』『逃げ上手の若君』といったA-1,Cloverの良作群、亜細亜堂の丁寧な仕事が光った『ゆびさきと恋々』、独特のこだわりが露出して止まなかった『義妹生活』、社会の暗さ(闇)を異世界人が緩く明るく照らした『変人のサラダボウル』、“冰剣”たかたまさひろ監督の『嘆きの亡霊は引退したい』など、いろいろと楽しませてもらった。「一年間、TVアニメを観る/触れる」という企画の趣旨に沿えるよう、来年も気負わずマイペースに観ていきたい。そういえば、今年はNetflix独占のアニメをいれなかった。意外だ。
中野英明虎王伝説『英雄教室』と「碇谷式虎王」
何か予感めいたものはあったかも知れない。中野英明が副監督を務めた『英雄教室』はそんな予感の的中したTVアニメとなった。
数々のアニメで竹宮流の奥義「虎王」を(無理矢理)披露してきた来歴については下記の記事リンクを参照。
執念深く、長期に渡って「虎王」や板垣恵介マンガのパロディを捻じ込んできた「実績」を鑑みて、今回も繰り出してくるだろうと予想していたのだけど、『英雄教室』はコメディの職人・川口敬一郎監督の下、暴走機関車のようだった『SKET DANCE』時代を思い起こさせるパロデイの雨あられ。
たとえば、絵コンテ・演出を担当した第2話「ソフィ」は冒頭からこのありさまだ。


元ネタは宮本武蔵が愛刀「無銘 金重」を手にする御存知『刃牙道』109話の試し斬りパート。ほぼ完全コピーといっていい出来栄えだが、これを手始めに続く話数では武蔵との試合で回転が間に合わず斬られた烈海王、またぞろ会食で中華料理を頬張る烈という強コンボ。


第9話でソフィの攻撃を見切るブレイドはかなり通好みだが、『餓狼伝』20巻で神山徹の踏み込みを見切った姫川勉の一連のパロディだろう(元ネタ画像はこちら)。
そしてついに解禁された『英雄教室』版虎王は、アーネストが仕掛け「完了」の直前に合気のような追撃が入る新パターン。完了キャンセル版虎王といったところか。

7,9話共に中野英明は絵コンテのみで演出に入っていないためか、全体的に若干“緩く”、完成度は歴代の虎王からすると甘めかも知れない。とはいえ、これだけ好き放題に板垣パロディを繰り出せるシリーズは珍しく、愛好家の身からすると充分といえる。
他方、近年は「刃牙」シリーズのアニメ化が進み、Netflixオリジナルアニメシリーズとして配信された「地上最強の親子喧嘩編」『範馬刃牙』37話では、範馬勇次郎に対して息子・刃牙が虎王を「プレゼント」している。


こちらは原作ママの虎王パートを効率的に再現。本家「刃牙」シリーズは動きの細かさよりも迫力を重視した作りであり、同じ虎王であっても(アニメ的な)思想がまるっきり異なる。そういった点を見比べるのも面白いだろう。
さらに直近ではNetflixがもう一方の“本家”である夢枕獏の小説『餓狼伝』を原作とするアニメ『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』を配信開始。藤巻十三を主人公とする外伝的・現代アレンジされたシリーズで、監督は『ID:INVADED イド:インヴェイデッド』9話のリアルなマーシャルアーツが話題を攫った碇谷敦。格闘的映像的なセンスはともかく、“獣臭”漂う『餓狼伝』とスタイリッシュな監督の作風がマッチするのか一抹の不安を持って見守っていたのだけど、いざ蓋を開けてみると、想像以上に「虎王」がフォーカスされ、さながら嵐の如し(とくに後半は虎王祭り)。



「碇谷式虎王」の特徴は積極的なスローと緩急によるメリハリ。間合い取りや打撃など、一般的な格闘シーンはかなり現実的に描かれているが*1、奥義である虎王だけはいくつかの「中野式」と同じく、アニメーションならではのカッティングで“必殺感”が高められている。このあたりの工夫も見どころのひとつ。
そして『餓狼伝: The Way of the Lone Wolf』最大の虎王的サプライズは最終話(8話)の「碇谷式虎王破り」だ。これはぜひ、自分の目で確かめてみてもらいたいが、個人的には『グラップラー刃牙』へのリスペクトを大いに感じた。最大トーナメントの決勝で範馬刃牙がライバル達の技を使ってみせた、あの興奮。刃牙が幼年時から愛用する胴回し回転蹴りカウンター……夢枕獏はもちろん、板垣恵介への多大なる尊敬の念が込められているように思えてならなかった。
板垣版の女性受けしない印象の藤巻と違い、意外なほど女性に縁のある新・藤巻十三。原作以上に「虎王」を物語のキーテクニックに置いた展開。なかなかどうして、こんな『餓狼伝』もありだと思わせてくれる。「碇谷式」、侮るなかれ。
*1:プロシーンで活躍する選手を「実写ユニット」として撮影し、アクションの参考や動きの描き起こしに活用しているようだ。
『響け!ユーフォニアム3』2話のキャットウォーク
「信頼」という点でこれほど安心感に満ちたシリーズもないだろう。『響け!ユーフォニアム3』は京都アニメーションの表現力と精密さにおいて、ソフィスティケートされた技の光る作品だ。「久美子3年生編」である今作の肝は、強豪校から転校してきた新たなユーフォニアム奏者・黒江真由。彼女に対する処遇やかかわり方が大きく物語を揺るがすことになるのだが、アニメはいかなる描写で「黒江真由」という人物に臨むのか、原作を読んだときから気になっていた。
感心したのは石原立也監督が絵コンテ・演出を務めた第2話「さんかくシンコペーション」のBパート、体育館での一幕だ。


サンライズフェスティバルの練習を体育館2階のキャットウォーク(ギャラリー)から見守る久美子と真由のシーン、じつは部分的に設定が変わっている。まず練習場所がグラウンドから体育館になっており、真由の着ている体操服も原作では「買ったばかりの体操服」とあるように北宇治のものだったはずだが、おそらく異物感、あるいは“異邦人”な意味合いを高めるためだろう、清良女子の体操服姿のまま。

そこへパート練習が始まると告げにくる“体で”わざわざやって来るのが久石奏だ。そのカット内で一瞬だけ真由の方へ視線を向ける芝居が入る。セリフにもある通り、久美子と自分の関係性をアピールしつつ、真由へ小さな牽制を行っているのだろう。面白いのはこれが「キャットウォーク」で行われていることだ。川島緑輝が恒例の動物シリーズで奏を「猫って感じ」*1と評しているが、作中の表現を考慮した、まさしく猫のような警戒心が漏れ出た芝居といえる。

また、固定されているタラップを使ってキャットウォークから降りる場面を描くのもアニメでは珍しい。自然に舞台を下へ移す必要があったとはいえ、わざわざタラップを使ったのは、奏と真由の会話の微妙な危うさを示すためかも知れない。通常なら大して危険でも何でもないが、足を踏み外したり、滑ったりする可能性もある。そんな極小のリスクを孕んだ会話をタラップという装置で比喩的に見せておく、深読みするならこんなところだろうか。
舞台装置を有効活用している点でいえば、釜屋すずめが姉を慕うあまり、暴走気味に直談判を決行した体育館脇のスペースも見逃せない。


石原立也回らしい身振り手振り(すずめは石原監督好みなが気がする)も楽しく、久美子の気苦労が窺い知れるが、ここに「物置」があることによって落語でいう「サゲ」に近い効果を生んでいる。本来心に留めておくべき感情を、あろうことか部長に直接開陳してしまう。要するに自分の意見を「収納しておけない」わけだ。久美子はそんなすずめの勘違いを解き、つばめの言うことをもう少し信じてあげてと優しく諭すが、「さんかくシンコペーション」はこうした「信頼」を巡るプロットで構成されている。そのクライマックスが久美子にとって特別な存在である高坂麗奈を照らす光だったというのは、最早必然と呼ぶほかない。メッセージ性の高い、象徴的なシーンだ。
京都アニメーションの表現力とそれを十全に生かす原作への解釈力。キャットウォークのくだりはほんの一例に過ぎないが、自分にとって信頼すべき一例だった。真由をみる奏の視線のような発見が、まだまだあるに違いない。
*1:アニメ第3話。原作では「甘え方をよく知ってる飼い猫みたいな感じ」。
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