boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『響け!ユーフォニアム3』2話のキャットウォーク

「信頼」という点でこれほど安心感に満ちたシリーズもないだろう。『響け!ユーフォニアム3』は京都アニメーションの表現力と精密さにおいて、ソフィスティケートされた技の光る作品だ。「久美子3年生編」である今作の肝は、強豪校から転校してきた新たなユーフォニアム奏者・黒江真由。彼女に対する処遇やかかわり方が大きく物語を揺るがすことになるのだが、アニメはいかなる描写で「黒江真由」という人物に臨むのか、原作を読んだときから気になっていた。

感心したのは石原立也監督が絵コンテ・演出を務めた第2話「さんかくシンコペーション」のBパート、体育館での一幕だ。

サンライズフェスティバルの練習を体育館2階のキャットウォーク(ギャラリー)から見守る久美子と真由のシーン、じつは部分的に設定が変わっている。まず練習場所がグラウンドから体育館になっており、真由の着ている体操服も原作では「買ったばかりの体操服」とあるように北宇治のものだったはずだが、おそらく異物感、あるいは“異邦人”な意味合いを高めるためだろう、清良女子の体操服姿のまま。

そこへパート練習が始まると告げにくる“体で”わざわざやって来るのが久石奏だ。そのカット内で一瞬だけ真由の方へ視線を向ける芝居が入る。セリフにもある通り、久美子と自分の関係性をアピールしつつ、真由へ小さな牽制を行っているのだろう。面白いのはこれが「キャットウォーク」で行われていることだ。川島緑輝が恒例の動物シリーズで奏を「猫って感じ」*1と評しているが、作中の表現を考慮した、まさしく猫のような警戒心が漏れ出た芝居といえる。

また、固定されているタラップを使ってキャットウォークから降りる場面を描くのもアニメでは珍しい。自然に舞台を下へ移す必要があったとはいえ、わざわざタラップを使ったのは、奏と真由の会話の微妙な危うさを示すためかも知れない。通常なら大して危険でも何でもないが、足を踏み外したり、滑ったりする可能性もある。そんな極小のリスクを孕んだ会話をタラップという装置で比喩的に見せておく、深読みするならこんなところだろうか。

舞台装置を有効活用している点でいえば、釜屋すずめが姉を慕うあまり、暴走気味に直談判を決行した体育館脇のスペースも見逃せない。

石原立也回らしい身振り手振り(すずめは石原監督好みなが気がする)も楽しく、久美子の気苦労が窺い知れるが、ここに「物置」があることによって落語でいう「サゲ」に近い効果を生んでいる。本来心に留めておくべき感情を、あろうことか部長に直接開陳してしまう。要するに自分の意見を「収納しておけない」わけだ。久美子はそんなすずめの勘違いを解き、つばめの言うことをもう少し信じてあげてと優しく諭すが、「さんかくシンコペーション」はこうした「信頼」を巡るプロットで構成されている。そのクライマックスが久美子にとって特別な存在である高坂麗奈を照らす光だったというのは、最早必然と呼ぶほかない。メッセージ性の高い、象徴的なシーンだ。

京都アニメーションの表現力とそれを十全に生かす原作への解釈力。キャットウォークのくだりはほんの一例に過ぎないが、自分にとって信頼すべき一例だった。真由をみる奏の視線のような発見が、まだまだあるに違いない。

*1:アニメ第3話。原作では「甘え方をよく知ってる飼い猫みたいな感じ」。