boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

話数単位で選ぶ、2022年TVアニメ10選+京都な4本

歳末のアニメファン企画、年間のTVシリーズの中からベストエピソードを選出する「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」(昨今はNetflixのシリーズも含めているけれど)エントリ。参加サイトの一覧など詳細は、昨年に引き続き「aninado」でぜひ。

以下、コメント付きでリストアップ。

■『86-エイティシックス-』第22話「シン」

脚本/大野敏哉 絵コンテ・演出/石井俊匡 総作画監督川上哲也、杉生祐一 作画監督/成川多加志、真壁誠、伊藤美奈、波部崇、小川莉奈、稲田正輝、樋口香里、安田京弘 制作進行/西原雛子

クオリティアップの為の放送延期が話題をさらったが、その甲斐あって石井俊匡演出の極北といえる最高のクライマックスにたどり着いた。画面の「余白」がドラマの「空白」を埋める、究極に近いアスペクトレシオのコントロール。作り手の真髄を見た思い。

 

■『明日ちゃんのセーラー服』第7話「聴かせてください」

脚本/山崎莉乃 絵コンテ・演出/Moaang 作画監督/川上大志 制作進行/本田守

「君を忘れない 曲がりくねった道を行く」

スピッツの歌に秘められた青春期の何とも言えない気恥ずかしさが、とある少女とギターに託された。きっとだれにでも、「想像した以上に騒がしい未来が僕を待ってる」と思って疑わないころがあったんだ、と錯覚させてしまうだろう筋立ての罪深さ(?)も心地良い。

 

■『王様ランキング』第21話「王の剣」

脚本/岸本卓 絵コンテ・演出/御所園翔太 演出補佐/田中洋之、総作画監督/野崎あつこ、作画監督/金採恩、荒尾英幸、山本祐子、鴨居知世、野田猛、島袋奈津希、野崎あつこ、御所園翔太、オ スミン、河内佑、土上いつき、桝田浩史 原画作画監督/斎藤美香、久慈陽子

わんぱく王子の大蛇退治』のようなクラシックなスタイルのアニメを現在のベスト・アニメーターたちが最新の技術で思う存分動かし尽くす――そんな思考実験が現実のものになったとしたら。その回答に用意したいエピソードのひとつが、これだ。

 

■『ONE PIECE』第1015話「麦わらのルフィ 海賊王になる男」

脚本/山崎亮 絵コンテ・演出/石谷恵 作画監督/森佳祐、伊藤公崇、小島崇史、山本拓美

しなやかで熱い。きわめて高い熱量を持っているのに、鮮やかな映像感覚で観客を魅了する。才気煥発という言葉はこういうフィルムを作る人間に当てられるべきなんだろう。まさに東映「最悪の世代(超新星)」の台頭。


■『サイバーパンク: エッジランナーズ』第6話「Girl on Fire/炎に包まれて」


脚本/宇佐義大大塚雅彦 絵コンテ・プロップ設定・キャプチャ原図/五十嵐海 演出/金子祥之 作画監督/五十嵐海、菅野一期

バリキオスこと荒井和人氏の「キャラデザの『向こう側』に行ける力量が凄い」評が印象的な五十嵐海成分100%の極濃ミックスジュース。常識的な社会の枠を飛び出す作品のさらに外へと駆け抜ける気勢に、ひたすら息を呑む。


■『リラックマと遊園地』第6話「遊園地の秘密」

脚本/角田貴志、上田誠 演出/小林雅仁 チーフアニメーター/根岸純子 クリエイティブアドバイザー/コンドウアキ

上田麗奈の自然体な演技をリラックマで堪能できるとは! いまの自分に悩むスズネが、ふと立ち止まって過去の自分をみつけるシーンはストップモーションの特性(静止と連続性)と相性バッチリ。線画を含め、多様な「回想」のバリエーションも楽しい。

 

■『アオアシ』第5話「オレンジ色の景色」

脚本/横谷昌宏 絵コンテ・演出/長沼範裕 作画監督/長谷川早紀、井川麗奈

紀子からの手紙を読むパートは原作でも屈指の名場面だが、アニメは劇伴と巧みなカットバック、園崎未恵(紀子)熟練の語りによって"威力"倍増。じわじわと感情を揺さぶり、涙を枯らした後は揺らがぬ決意の表情でピリオドを打つ。紀子の横顔修正、話数全体のレイアウト力も素晴らしい。

 

■『Extreme Hearts』第11話「Run for Victory」

脚本/都築真紀 絵コンテ/西村純二、吉田徹 バスケシーン絵コンテ協力/夢川智久、演出/管野幸子、演出補佐/にわ素彦 作画監督/橋本貴吉、平田賢一。鞠野黄英、三橋美枝子、ジョンヒジン、河本美代子、野﨑将也、小川浩司 総作画監督/新垣一成、奥田泰弘、アクション作監/吉田徹

「いいからテーピングだ!」という神奈川No.1センターの幻聴がするほど、『スラムダンク』オマージュを横断的(海南戦、陵南戦、山王戦、桜木+赤木、沢北的スーパープレイetc)に行いながらテンポ良く、かつスローモーションの多用で見せ場を作りつつ纏め上げる匠の手腕に脱帽。レイアップに行く際の腕の伸ばし方など、"それっぽさ"も細かい。


■『Do It Yourself!! -どぅー・いっと・ゆあせるふ-』第10話「DIYって、どんぞこ?・いんぽっしぶる?
・ゆうきとやるきがあればなんでもできる!」

脚本/筆安一幸 絵コンテ/笹木信作 演出/中込健人 作画監督/吉田南、茂木海渡、福永智子、片出健太 作画監督補佐/酒井愛理、加藤けえ

「話数単位」常連のベテラン、笹木信作コンテを新鋭・中込健人が演出するエピソードは、先輩の思いを後輩が受け継ぐ座組みに相応しい内容で、だれの思いがだれに向けられ、だれを見守ってくれていたのか。シンプルなテーマを過不足なく、必要な手数で十二分に伝えきる。見上げた先にいるぷりんを、ついにせるふが見つける。ただそれだけのことをこれほど感動的に描く、視線の演出術。

 

■『ぼっち・ざ・ろっく!』第12話「君に朝が降る」

脚本/吉田恵里香  絵コンテ・演出/斎藤圭一郎 作画監督/けろりら

妙な話かもしれないが、稀に「作り手の青春」を垣間見る作品がある。才華輝く若手が中心となって愛情を注ぎこみ、遊び心いっぱいにアニメを作っているな、と感じるシリーズのことだ。例えば『けいおん!』だったり、『アイカツスターズ!』もそうだったと思う。そんな彼らの全力投球を受け止める快感は何ものにも代え難い。「ナイスボール!」。キャッチャーはそう声を掛けてボールを返すのみだ。

 

番外編・京都な4本

■『平家物語』第1話「平家にあらざれば人にあらず」

■『舞妓さんちのまかないさん』第33話「豚汁」

■『であいもん』第3話「夏宵囃子」

■「モダンラブ・東京〜さまざまな愛の形〜」第7話「彼と奏でるふたりの調べ」

「彼と奏でるふたりの調べ」はイレギュラーな形式(実写6本+アニメ1本シリーズ)だったが、手のひらから温もりが伝わってくる素晴らしい小品で、京都アニメーション出身・山田尚子監督の面目躍如。「平家物語」に「舞妓」「和菓子」という京都の舞台性を生かした作品群が揃っていたのも面白く、いずれも手つきは繊細、人との距離感をはかり、微妙なグラデーションを描いたもの。これも一種の「京都っぽさ」なのだろうか。

 

「話数単位」企画には、意外と頭を悩ませるアニメがある。それは『銀河英雄伝説 Die Neue These』で第2シーズン以降、劇場公開後に順次配信される流れになっているが、年の後半になると配信が年を跨ぐエピソードも出てきてしまう。すると必然、最初の「放映年」を重視したい気持ちと、だれに咎められるわけでもないのだから「TV放送/配信年」でいいのだという心がせめぎ合う(今年はFODで先行配信された『平家物語』が似た状態にあった)。これは参加者それぞれの線引きでしかなく、たぶん「どちらでもいい」案件なのだけど、『舞妓さんちのまかないさん』のようにEテレ放送前にNHKワールドでかなり先んじた配信が行われ、オープニング映像まで異なる場合、さらに難しくなる(ワールド版のインストゥルメンタルに慣れた後に歌つきのオープニングはあまり嬉しくなかった)

話を少し変えて。年間を通していちばん作画的な興奮を感じたシーンは『東京ミュウミュウ にゅ~ 』の変身バンクかもしれない。元々「神作画」というミームの発祥である(といわれている)『東京ミュウミュウ』の新作にその立役者であるスタジオへらくれすメンツが再び集まり、バンク・必殺技アニメーションを手掛ける"歴史的"サプライズにクラッときてしまった。

吉成鋼アート展と化した『ヤマノススメ Next Summit』エンディングも歴史的成果物だと思うけれども、あれは毎晩美食倶楽部に連れていかれるみたいなもので、敷居を跨ぐのに勇気がいる。

他、挙げられなかったが、基本的にコンテ・演出を兼任する大島克也回(サマータイムレンダ、ラブライブ!スーパースター!! など)はどれも腰の据わった出来栄えだったし、『くノ一ツバキの胸の内』富井ななせ回も取り上げたかった。そうそう、あおきえいの各話コンテもなかなか味わい深く……とひとつひとつ思い出していくのも「話数単位」の妙味だが、続きはまたの機会に。

来年も粋なサプライズを待ちつつ、もっとアニメを観よう!