boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

話数単位で選ぶ、2021年TVアニメ10選+2

年末が近づくと思い出すTVアニメのエピソード選出企画、「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」のエントリ。企画参加サイトの一覧は昨年同様「aninado」でチェック。

以下、コメント付きでリストアップ。

■『ぶらどらぶ』第4話「サラマンダーの夜

f:id:tatsu2:20211223104728p:plain

脚本・絵コンテ/押井守 演出/西久保利彦 作画監督/水野友美子、山内玲奈

『ぶらどらぶ』は一口で言うなら、「けったいなアニメ」だ。口に入れた瞬間は飲み込んでいいものか戸惑うのだけど、何度も噛んでいるうちに味わい方がわかってくる。『パト2』のセルフパロディ*1が顕著だった4話は、「本物」の演出である西久保利彦をわざわざ召喚し、映画では「幻」だったワイバーン隊をここでも「本物」の竜に置き換えるなど、押井守のテーマである「虚構と現実」のメタフィクションが内外で炸裂。押井ファンを待ってましたと笑顔にさせる一本だった。

 

■『八十亀ちゃんかんさつにっき 3さつめ』第3話「鍛えにゃあ」

f:id:tatsu2:20211223132351p:plain

脚本/WORDS in STEREO 絵コンテ/東亮佑 演出/王悦春 作画監督/王悦春、周婧、余彦祖

ララちゃん先生扮する「Ms.T」の華麗なマルセイユ・ルーレット、FC「キャプ翼」風画面、わりとガチめなチャントといったネタの完成度に感嘆する八十亀ちゃんサッカー回だが、特筆すべきはクレジット。権利関係をクリアするためにグランパスだけでなく、ネタ元の各チームへ協力を仰いでいる。遊びは本気でやるからおもしろい、それが伝わる協力クレジットは後世に伝えていきたい。

f:id:tatsu2:20211223133000g:plain

f:id:tatsu2:20211223133305p:plain

 

■『SK∞ エスケーエイト』第5話「情熱のダンシングNight!」

f:id:tatsu2:20211224174856p:plain

脚本/大河内一楼 絵コンテ/五十嵐卓哉 演出/宮西哲也 作画監督大貫健一、徳岡紘平

思えば「一皮むけた内海紘子監督」を実感したのは、愛抱夢のラブハッグを破った「宗教画レキ」だった。大河内脚本とのケミストリー、誇張もあろうが、まさか内海アニメで腹を抱えて笑う日がこようとは。今年いちばんアニメで笑ったカットと言っても過言じゃない。とはいえ、愛抱夢然り、一線を越えるような“オフェンス”はしっかりした地金(五十嵐コンテ)を下敷きにしているからこそ。本来的な演出力の勝利、と言えるのかもしれない。

 

■『ウマ娘 プリティーダービー Season2』第10話「必ず、きっと」

f:id:tatsu2:20211223172047p:plain

脚本/米内山陽子、永井真吾 絵コンテ・演出/種村綾鷹 作画監督/福田佳太、ハニュー、桐谷真咲

ツインターボのとにかく逃げ、何馬身開いているかとても実況では、今の段階では分からないぐらい、大きく大きく差をつけて逃げていっています!」「さあ早くもツインターボだけが、ツインターボだけが4コーナーのカーブに入ってきました!」

ツインターボ’93オールカマ―の大逃げは最早語り草だ。それをフジテレビ版のカメラアングル、塩原恒夫実況のフレーズを忠実に拾って作り直したウマ娘屈指の「伝説再現」。呆然とレースを見つめるテイオーの眼差しの先、諦めることを否定するターボの激走。感情の揺さぶり方がじつに上手い。また感動前の一笑い、目出し帽をかぶり、強盗よろしくレース中継を仕組んだカノープスも忘れられない。及川ギャグ、どこまでも飛び道具だ。

f:id:tatsu2:20211223175938p:plain


www.youtube.com

 

■『スーパーカブ』第1話「ないないの女の子」

f:id:tatsu2:20211223124309p:plain

脚本/根元歳三 絵コンテ/藤井俊郎 演出/安部祐二郎 作画監督/齊藤佳子

クラシックを基調とした静謐感のある音楽、岩井俊二を思わせる独特の空気感。藤井俊郎監督の手法的挑戦、こだわりが味わい尽くせる話数と言えば、やはり第1話以外にない。生活範囲の広がり、それに伴う苦労と喜びがフィルムに満ちており、感情に合わせ鮮やかに色づく表現はその象徴だ。本年の「ベスト1話」候補筆頭*2

 

■『Sonny Boy』第8話「笑い犬」

f:id:tatsu2:20211223111615p:plain

脚本/夏目真悟 絵コンテ・演出・作画監督斎藤圭一郎

良質な短編小説に触れたときのような、胸の奥にじんわり沁み込んでくる読後感。アンドリュー・ワイエス調の美術といい、「やまびこ」と「こだま」の言葉すると崩れてしまいそうな関係性といい、「世界」をコンセプトにした作品にあって、作り手の世界観がそのまま映像になっている――と思わせてくれる巡り合わせの妙。「斎藤圭一郎」を語る上で欠かせない、羅針盤になるだろう一篇。

 

■『のんのんびより のんすとっぷ』第11話「酔っぱらって思い出した」

f:id:tatsu2:20211223140820p:plain

脚本/吉田玲子 絵コンテ/澤井幸次 演出/小柴純弥 作画監督/池津寿恵、渡部桂太、石田誠也、若山政志、服部憲知、井本由紀、倉谷亮多、原口渉

『のんすとっぷ』はシリーズ構成、脚本に痺れたアニメだった。連続性があるわけではない原作のエピソードを巧みに繋ぎ、作品の魅力を深く引き出す。11話に関して言えば、ひかげ(福圓美里)極上の「はよ寝ろや」以降はアニメで膨らませたオリジナル部分で、れんげに布団をかけられた楓(駄菓子屋)の“間芝居”は原作に対する脚本、さらに脚本に対する演出の高度なアンサーだ。ひか姉よ、永遠たれ。

 

■『小林さんちのメイドラゴンS』第10話「カンナの夏休み(二か国語放送です!?)」

f:id:tatsu2:20211223121138p:plain

脚本/西川昌志 絵コンテ・演出/小川太一 作画監督/引山佳代、熊野誠也

いきなりNY(らしき場所)へ飛び出してしまうカンナと、何かが起こるわけでもない小林さんと過ごすありふれた一日を描いた贅沢な二本立て。冒険的な前半と日常的な後半、ファンタジーと非ファンタジー、そして気づかされる「大切なもの」というテーマの対照がみごと。心の襞を捉える瑞々しい演出も見どころ。小川太一、エースの風格。

 

■『乙女ゲームの破滅フラグしかない悪役令嬢に転生してしまった…X』第8話「お見合いしてしまった」

f:id:tatsu2:20211224190727p:plain

脚本/笹野恵 絵コンテ・演出/戸澤俊太郎 作画監督/服部憲知、松田萌、上田彩朔、木村拓馬、小幡公春、井本由紀、高橋美香、徳田夢之介

窓枠を使ったフレームレイアウト、画面を埋め尽くす花とひらひら舞う白い蝶、逆光、夕景、マジックタイム……モチーフあり、リスペクトあり、これほどありありと演出家の「表情」が浮かんでくる話も珍しい。カタリナの「周辺」で育まれていくドラマという意味でも奥行きがあり、スタッフへの注目、シリーズ展開の双方で意義深いエピソード。

 

■『ラブライブ!スーパースター!!』第9話「君たちの名は?」

f:id:tatsu2:20211223163624p:plain

脚本/花田十輝 絵コンテ・演出/大島克也 作画監督/市原圭子、尾尻進矢、清水文乃、高澤美佳、永山恵、藤井智之、水野辰哉、吉田雄一

個人的にずっと抱いていた「こんな大島克也回を見たい!」が実現した話数。何度も回る瞳のハイライト、連続ジャンプカット、コメディ感のある構図やポージングにあふれる自由闊達なセンス、手札の多い演出はより一層の飛躍を感じさせてくれる。その名が天下に轟く日は、きっとそう遠くない。

 

■「+2」編 

  • 『バクテン!!』第7話の雨上がり

f:id:tatsu2:20211224172832p:plain

シーン単位で振り返って、とくに印象的だったのが志田と馬淵が雨上がりの橋の上で光射す空を見上げる場面だ。これは単体で見ても美しい仕上がりなのだけど、「ゼクラジ」15回で黒柳トシマサ監督が明かした裏話込みで語りたい。というのも、黒柳監督は根っからの宮崎駿好き(マニア?)で、このシーンは高畑勲監督の「お別れ会」で宮崎監督が読んだ追悼文の一節、「雨上がりのバス停での出会い」をやりたかったというのだ。それを知って観直しみると、美しさの中に違った思いが滲んでくる。黒柳演出の芯は、たぶんこういうところにあるのだろう。

  • Artiswitch (アーティスウィッチ)


www.youtube.com

いまやWeb配信されるアニメーションは枚挙にいとまがないけれど、とりわけ目を瞠ったシリーズがサンライズ×アソビシステムのオリジナルアニメ『Artiswitch』。出合小都美、櫻木優平、安藤良らが顔を揃える豪華な演出陣に加え、『思い、思われ、ふり、ふられ』(奇しくも黒柳トシマサ監督作品)を担当した吉田恵里香による全話脚本。各話8分程度で終わるショートアニメだが、「原宿の魔女版笑ゥせぇるすまん、あるいは地獄少女アウターゾーンか」という馴染みやすい(?)内容で、MV的な手法といわば「彼女たちの存在証明」とも呼べるストーリーラインは没入感があり、食い入るように見てしまう。文字通りの「ダークホース」アニメだ。

 

レギュレーションが許すなら、まだまだ取り上げたい作品/エピソードは沢山あった。山田尚子監督の解釈に唸らされた『平家物語』、『ルパン三世 PART6』押井脚本回、『バビロン』チームの新機軸『スライム倒して300年』、変化球としては「吾輩は猫である」パロディ、「土視点」回に驚かされた『やくならマグカップも 二番窯』など、振り返ってみると、アニメの穂はまだまだ揺れていて、次々に実っているのだなと思う。配信全盛期の到来によってTVアニメの定義も曖昧になっているとはいえ、「話数単位」で見つめる行為に変わりはない。来年も、TVアニメを観よう。

 

*1:押井守に言わせれば、「あのシーンの真実はパロディではなく悪ノリ」だそうだ。

*2:他、『古見さんは、コミュ症です。』『ワンダーエッグ・プライオリティ』第1話。