年間のベストエピソード振り返り企画「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」に今年も参加。詳細はいつもお世話になっている「aninado」でぜひ。
以下、コメント付きでリストアップ。
■『葬送のフリーレン』第26話「魔法の高み」
脚本/鈴木智尋 絵コンテ/斎藤圭一郎、原科大樹、岩澤亨 演出/森大貴 作画監督/廣江啓輔、瀬口泉、新井博慧、八重樫優翼 総作画監督/長澤礼子 総作画監督補佐/藤中友里 アクション作画監督/岩澤亨
「静と動」の対比がみごとなシリーズにあって、“動”の集大成といえるエピソード。対フリーレンパートは文字通り「アクション作画の高み」を容赦なく観客に叩きつける高密度運動の連続。フェルンの自信とそれを砕く練達の技、そして必要最小限の描写で語られる信頼関係。作画に負けず劣らず、演出力も光る名場面だ。
■『ダンジョン飯』第18話「シェイプシフター」
脚本/うえのきみこ 絵コンテ/雨宮哲 演出/成田巧 作画監督/桐谷真咲、坂本俊太、中島順、ハニュー、楠木智子、斎藤和也 総作画監督/竹田直樹
本作屈指のアイディア回である「シェイプシフター」に雨宮哲を当てるスタッフィングの奇想もみごとなら、ライオスの観察力への不安をアニメ的解像度ギャグにしてみせる機転も秀抜。大鍋一杯のユーモアを調理する、工夫と陽気に満ちたアニメーション。逸品。
■『響け!ユーフォニアム3』第12話「最後のソリスト」
脚本/花田十輝 絵コンテ/小川太一 演出/山村卓也 作画監督/髙橋真梨子、引山佳代 総作画監督/池田和美
“原作に寄り添う”映像化*1の旗手だった京都アニメーションが仕掛けてき超級のサプライズであり、原作の展開を譲るはずがないと高を括っていた懐へ投げ込まれた剛速球。予定調和に留まらない挑戦的な姿勢に賛否渦巻いていたが、個人的には絶賛したい。息を呑むほど美しい「泣き作画」も京都の真骨頂。
■『忘却バッテリー』第11話「俺は嘘つきだ」
脚本/池田臨太郎 絵コンテ/徳丸昌大 演出/徳丸昌大、増田桃一郎 演出補佐/橘内諒太 作画監督/徳丸昌大、井上修一、小木曽伸吾、石塚理央、宮地聡子、中西優里香、陳品君、若狭賢史、三浦里菜、陳韋寧、飯田剛士、キム ヒョナ、パクソジョン、林梦贇 総作画監督/朴旲烈、島袋奈津希
後ろへ繋ぐ、たった一つの四球。その背景に隠された膨大な葛藤を描くことがこんなにも観る者の心を揺さぶる。アスリートのリアリティを追求しながら、アスリートに打ちのめされた人間の弱さを活写する。次第に熱を帯びていく千早瞬平役・島﨑信長のモノローグもいい。入魂の演技とはこういうものだろう。
■『ぷにるはかわいいスライム』第7話「Sweet Bitter Summer」
脚本/池田臨太郎 絵コンテ・演出/ちな Vコンテ/土上いつき 作画監督/今岡律之 総作画監督/田中彩
2000年代の水着回を彷彿とさせるハイテンポ・ギャグからワンピースの美少女と無人の画面に残る扇風機の叙情、そしてフラスコ分割の同ポ繰り返しという演出の開陳……その発想力もさることながら、何より娯楽短編としての魅力が素晴らしい。力を尽くしてアニメを楽しむ、そんな作り手の気概が嬉しい。
■『わんだふるぷりきゅあ!』第35話「悟の告白大作戦」
脚本/平林佐和子 絵コンテ・演出/広末悠奈 作画監督/廣中美佳
初回を観たときから気になっていた広末悠奈初のコンテ・演出回。冒頭から印象的な花のモチーフ、アイディアが横溢するコミカルな画作り、告白という悟の一大決心と作り手の足並みが揃い、明るさと不安、幸福と躊躇いの絶妙なバランスの上に成った一編。猫屋敷まゆのコメディエンヌっぷりも必見。
■『ガールズバンドクライ』第11話「世界のまん中」
脚本/花田十輝 絵コンテ/酒井和男 演出/平山美穂 リードアニメーター/中村有希恵、香月誠亮
圧倒的なライブパフォーマンスと新たなテクノロジーによる未踏の地点への跳躍。井芹仁菜の解放的なステージングに気圧されたまま、いつの間にか見入っていた自分に気づく。彼女たちの感情が憑依しているかのような、途方もないカメラワークはまさに超絶。鬱憤も怒りも、音楽を通して発火する。年間ベストアクトを選ぶならこれだ。
■『MFゴースト』第18話「芦ノ湖スカイラインの悪魔」
脚本/山下憲一 絵コンテ/高橋成世、阿部雅司 演出/阿部雅司 演出チーフ/濱田翔 作画監督/石本英治 総作画監督/恩田尚之
悪条件であればあるほど本領を発揮する片桐夏向の“ゴースト性”。その異次元のレーシングテクニックに驚く周囲のリアクションと映像的テンションが噛み合ったときの快感は唯一無二だ。また、この盛り上がりを受け取った19話、故・岩瀧智氏の仕事(作監込み第一原画)も覚えておきたい。
■『ダンダダン』第7話「優しい世界へ」
脚本/瀬古浩司 絵コンテ・作画監督/榎本柊斗 演出/松永浩太郎 副監督/モコちゃん 作画監督補佐/奥谷花奈
――稀に、すこし集中力を欠いていたり、何となく習慣的に観ているだけの時間の中で、ごく稀にこういう瞬間的にハッとさせられる一本に出会うことがある。思い出すだけで心が震えるような、TVアニメの真価と奥深さに打たれるような一本。夢想的なバレエのイメージと極めて現実的な金銭・暴力のカットバックが織り成す人生の凝縮。哀切、痛み、喜び、祈り。そのすべてがここにある。
■『ゴー!ゴー!キッチン戦隊クックルン』第969話「時間よ、とまれ」
脚本/竹村武司 出演/斉藤柚奈、藤本風悟、石塚七菜子、岡宏明 声の出演/外崎友亮 音楽/原口沙輔
のっけから「アニメーターさんが休めたって喜んでたよ」というセリフがあったり、制作現場で用いられているストップウォッチが登場したり、やりたい放題のメタの極致を闊歩する大問題(?)連作*2。プロデューサーの許可を得て、最大35秒間完全停止した画面を放送する実験は、「映像と時間」に連関する緊張を改めて問うもの。中々どうして、侮れない。
他方、特別枠で挙げておきたいのは、放送されるやいなや話題を独占した『ONE PIECE FAN LETTER』だ。東映時代の同期だったという脚本家・豊田百香とアニメーターの森佳祐、そして一気にスターダムを駆け上がった感もある石谷恵監督によるドリームフィルム。
その物語性も遊び心も作品へのリスペクトに溢れ、じつにアドレッセンス。劇中の少女のように、この作り手たちが果たして何処に向かうのか見届けたい、そんなふうに思わせてくれる至高のフィルムだった。
振り返ってみると、まだまだ取り上げたい作品はあった。『負けヒロインが多すぎる!』『NieR:Automata Ver1.1a』『逃げ上手の若君』といったA-1,Cloverの良作群、亜細亜堂の丁寧な仕事が光った『ゆびさきと恋々』、独特のこだわりが露出して止まなかった『義妹生活』、社会の暗さ(闇)を異世界人が緩く明るく照らした『変人のサラダボウル』、“冰剣”たかたまさひろ監督の『嘆きの亡霊は引退したい』など、いろいろと楽しませてもらった。「一年間、TVアニメを観る/触れる」という企画の趣旨に沿えるよう、来年も気負わずマイペースに観ていきたい。そういえば、今年はNetflix独占のアニメをいれなかった。意外だ。