話数単位で選ぶ、2020年TVアニメ10選
年の瀬の恒例企画、今年放送されたTVアニメの中からエピソード単位で10本選ぶ、「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。参加サイトは新米小僧さんからバトンを受け継いだ「aninado」をチェック!
以下、コメント付きでリストアップ。
■『ねこねこ日本史』 第123話「千年前から萌えを叫ぶ、更級日記!」
脚本/平林佐和子 絵コンテ・演出/千野早百合 作画監督/野嵜貴子、Ingen
「平安のハイパー文学少女」菅原孝標女の『源氏物語』耽読紀であり、現代風のスマホやSNSを活用する平安版「同人女の感情」ともいうべき一篇。晩年、孤独を感じながらも昔のつぶやきを読み返すことで情熱を取り戻し、「物語なしの人生なんて、やっぱ無理!」と叫ぶ場面は千年の時を越えて、“後輩”へ道を示してくれるようであった。
■『イエスタデイをうたって』第6話「ユズハラという女」
脚本/田中仁 絵コンテ/田中雄一 演出/藤原佳幸、金成旻 作画監督/藤原奈津子、渥美智也、小林恵祐、久保茉莉子、曾我篤史、松本翔吾、菊永千里、海保仁美、上野沙弥佳、乘富梓
アベレージの高さゆえ話数単位の選考が悩ましいが、個人的にはタバコと家庭料理という相反する属性を持つアンニュイな女・柚原チカが映像化されたこのエピソードを挙げたい。全編生活芝居の説得力が素晴らしく、中でも際立っているのは終盤、原作の構図そのままに物憂げにタバコを吸い、風に髪をなびかせるユズハラのカットに残る味わい。喜多村英梨の饒舌な演技の後に気怠く、過去と「いま」に吹く余情。これぞイエスタデイ。
■『マギアレコード 魔法少女まどか☆マギカ外伝』第13話「たったひとつの道しるべ」
脚本/小川楓、劇団イヌカレー(泥犬) 絵コンテ/鈴木利正、安食圭、宮本幸裕 演出/宮本幸裕 作画監督/伊藤良明、高野晃久、宮井加奈、船越麻友美、宮嶋仁志、築山翔太、岩本里奈、沼田誠也、松崎嘉克、宮﨑修治
いろはに抱きしめられ、新たな絆を結んだはずのやちよを襲うさらなる悲劇。絶対的な物量で押す巴マミ改めホーリーマミvs美樹さやかのアクションパートは、超回復やティロフィナーレのバリエーションなどファン向け要素を入れつつ、迫力満点の映像に仕上がっている。最終回に相応しい「期待通りのカタストロフィ」がいっそ快い。
■『推しが武道館いってくれたら死ぬ』第6話「僕の全てが君だった」
脚本/赤尾でこ 絵コンテ/望月智充 演出/加藤峻一 作画監督/村上直紀、森本由布希
空音による「れお推し」がピークを迎える、作中の言葉を借りるなら「尊い」お話。噴水と感情を重ねた「武道館」宣言、ふたりきりの路面電車と告白、アニメならではの「推し武道空間」が炸裂。作劇にプラスアルファを与えたフィルムスコアリングの威力も見逃せない。
■『22/7』第7話「ハッピー☆ジェット☆コースター」
脚本/大西雄仁 絵コンテ・演出/森大貴 作画監督/三井麻未、田川裕子、川村幸祐、木藤貴之、りお、凌空凛、飯野雄大
戸田ジュンの背景・二面性を青空と夕景、光と影によって描いた屈指の「好演出」話数。飛行機雲、フォーチュンクッキー、花といった多彩な仕掛けも機能的。画面設計のセンスがキラリ。
■『プリンセスコネクト!Re:Dive』第2話「きまぐれ猫の悪戯〜黄金色のポカポカおにぎり〜」
脚本・絵コンテ/金崎貴臣 演出/石川俊介 作画監督/石動仁、池津寿恵、河村涼子、門智昭、二宮奈那子
笑って食べて、思い切り体を動かして、また食べて時にしんみりする。ユーモアと叙情に食欲を加えた金崎ワールドの新境地。孤独なキャルの背中が胸を打つ第2話は、ファンタジーの大定番・竜退治とおにぎりで心をあたためる、“具材”の美味しさが詰まった幕間劇。ぺコリーヌの剣を盗んだイカッチ&チャーリーの改心「おいっす~」ロングはお気に入りカット。コミカルなポーズと夕暮れの街並みを同じ画面に収める感覚が、なんとも金崎監督らしい。
■『波よ聞いてくれ』第12話「あなたに届けたい」
脚本/米村正二 絵コンテ・演出/南川達馬 作画監督/岡崎洋美、粕川みゆき、神谷美也子、髙橋あやこ、徳永竜志、冨吉幸希、久松沙紀、吉田雄一、吉山隆士
原作付きアニメの醍醐味のひとつに「分岐」がある。原作に沿った展開が、どこかで枝分かれして進んでいく未知なる物語への興味。『波よ聞いてくれ』では原作の時計を早めて地震を起こり、あたかもミナレの得意とする「即興」が繰り広げられた。能登麻美子が泣きながらつぶやく「もお……やだ……」、大原さやかの安らぎを与える声質と喋り、そしてミナレ役・杉山里穂のバイタリティ溢れる演技。目と耳で味わう、これがラジオドキュメンタリーの完成形。
■『ゴールデンカムイ』第32話「人斬り」
脚本/谷村大四郎 絵コンテ/安藤真裕 演出/鳥羽聡 作画監督/徳田賢朗
「人斬り用一郎」を“無皇刃譚”安藤真裕が切る。心象風景としての京都をオーバーラップさせる画面演出をはじめ、手慣れた殺陣にエトゥピリカと妻の思い出を重ねるドラマの構成、ひりつくような緊張感が堪らない。そして最後はウェットに幕を引く……と思いきや、いつもの様式美的オソマ落ち。ヒンナヒンナ。
■『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』第8話「しずく、モノクローム」
脚本/大内珠帆 絵コンテ・演出/長友孝和 作画監督/菅野智之、北島勇樹、チョウハンミンギ、吉山隆士
二人の桜坂しずく、彼女自身が思い描くイメージによる独白であり、舞台上の演劇でもあったという叙述的な構成に驚かされる、“ベストサブタイトル賞2020”。名作古典を下敷きにしつつ、過去シリーズの構図を引用、再演するファンサービスも粋で、随所に見どころ多数。「かすみん」株の上昇、「演劇部部長」の存在感も強い。
■『ハイキュー!! TO THE TOP』第24話「バケモンたちの宴」
脚本/岸本卓 絵コンテ/笹木信作 演出/鎌倉由実 作画監督/折井一雅、片桐貴悠、向田隆、米川麻衣
思わず息を止めて見入ってしまう圧倒的な臨場感。稲荷崎戦を締め括るラスト一点の攻防は、TVアニメの究極に迫る演出、作画、音響による「バケモンたちの宴」。稲荷崎の横断幕「思い出なんかいらん」のインサートや北信介の瞳の中で終わりを告げるカットなど、原作コマの選択と表現力に脱帽。「ハーケン」でレシーブしたボールをみごとに繋いだ、ハイキュー班の矜持と底力に只々拍手。
最後まで悩んだのは、『ミュークルドリーミー』*1『映像研には手を出すな!』『やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。完』『魔法科高校の劣等生 来訪者編』*2の4タイトルから選ぼうとしていた話数。いずれも完成度が高く、迷いに迷ったが、ひとまず。作品単位では原作の連載を追っている『魔王城でおやすみ』の安定感に一票。山崎みつえ監督の愛情たっぷりな、かつ洗練された作風は観ていて心地良い。
例年に比べ、中間期がやや薄くなったものの、振り返ってみれば佳作・傑作が揃い、まだまだTVアニメの力を信じられる、信じてみたくなる一年だったと思う。もっともっと、アニメを観よう!