boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

演出メモ/『推しが武道館いってくれたら死ぬ』6話

『推し武道』は岡山アニメだ。桃太郎像や岡山城など、岡山の名所や観光スポットが度々出てくる。だから、同じ岡山を舞台にしたTVアニメ『バッテリー』('16)の望月智充監督が参加すると聞いて、不思議な縁があるなあと思った。

第6話「ぼくの全てが君だった」は第3話以来、二度目の望月コンテ回で主役は松山空音。五十嵐れおに対する憧れの想いをChamJamのメンバーが揃っていく様子を交えながら、回想していく。

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原作と比べ、アニメはれおを見つめる空音の視線、「隣にいること」を強調。たとえば原作で「ステップが難しい」となっている箇所がダンスではなく、歌唱練習のワンシーンにアレンジされ、れおの隣に空音が自然と並び、視線の流れが掴みやすくなっている。

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その極めつけと言えるのが、 7人揃ったCham Jamが初ライブを終え、反省会めいた話をする場面だ。

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岡山駅東口駅前広場の桃太郎像、球体型噴水という珍しいオブジェが目を引く同東口駅前「ふれあいの泉」。岡山を象徴する場所で、れおは「わたしたちは武道館にいこう」と作品を象徴するセリフを口にする。

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その一連のコンテワーク、噴水を利用した感情表現と画面分割による言葉の響き"順"は意味深だ。空音が最初から画面にいて、次に舞菜、文、眞妃、優佳、ゆめ莉と続いていく。そしてシーンの最後は、れおが空音の手を握り、空音がれおの不安な気持ちを汲み取って空を見上げる。

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空音はれおを見ているけれど、前のグループが解散してしまったれおが見ているのは、「また解散してしまうかもしれない」という恐れを含んだ未来なのだ。不安、喜び、決意、様々な感情が噴き出す水に仮託されているのだろう。小さな球体が集まって大きな球体になる噴水の形状もいい。「グループ」もそうだからだ。

他、えりぴよの「5秒ではがされる前に想いを伝える芸」の映像再現。

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実際には10秒以上喋っているが、画面に秒数を表示し続けることによって、「圧縮された劇中の時間」だと視聴者は理解する。聞き取れる範囲の早口でセリフを落とさず喋らせるアイディア。

思わず笑ってしまった基の「池田屋階段落ち」。

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原作ではその場で倒れ込むだけだったのが、派手に死なせる大胆なシチュエーション変更。「上がっては落ちる」基のセリフが6話のサブタイトルになっていることもあってか、斬られた浪士さながらのみごとな階段落ちを繰り出している。

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基にとって空音がすべてだったとしたら、空音のすべてはだれに注がれているのか、それは――という答え合わせまで構成されているところが、このエピソードの巧さであり、おもしろさ。『推し武道』の鉄道車両はまるで異空間。えりぴよと舞菜が偶然同じ車両に乗り合わせたあの印象的な話数のコンテも望月智充だ。エンディングの「桃色のファンタジー」とはよくできた歌詞だと思う。

 

中野英明虎王伝説・総集編

2010年代中盤、格闘小説『餓狼伝』に登場する竹宮流の秘奥「虎王」が、何故だか(一部の)アニメを賑わせていた。仕掛け人は板垣恵介版・マンガ『餓狼伝』を愛読していたであろう演出家、中野英明。

以前、中野英明回で虎王が使用されるたびに記事を書いていたのだけど、移行に伴って消えてしまった。新たな発見もあり、その足取りをまとめ、もう一度振り返ってみたい。

■『ベン・トー』7話 「オムっぱい弁当 752kcalとロコもっこり弁当 1100kcal」(2011)

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伝説の序章は『探偵オペラ ミルキィホームズ』で目立ち始めていた頃、脚本家・ふでやすかずゆきの紹介で参加したらしい板垣伸監督の半額弁当バトルアクション『ベン・トー』。《氷結の魔女》と呼ばれる槍泉仙のプール虎王は、足技が得意なキャラクターらしいアレンジで一連の流れも綺麗に決まっている。この足を振り上げたところから始まるカット割りは、『餓狼伝』22巻で長田が姫宮にかけた虎王*1を参考にしていると思われる。

 

■『SKET DANCE』74話 「フードファイターお宅訪問!」(2012)

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次は演出の方向性をある意味決定付けたと言える『SKET DANCE』。入射光やハーモニーを繰り出す出崎統の演出パロディを始め、重度の板垣恵介ファンであることを伺わせる『バキ』コマのパロディカット多数。「虎王」そのものは使われていないが、丹波文七 vs 堤城平戦で技が発動する鍵となる、内に潜む獣を縛る鎖が破られる描写があり、『ベン・トー』と合わせ「虎王」がほぼ完成。

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またこのエピソードは中野英明もうひとつの側面、『機動警察パトレイバー2 the Movie』に対する愛着を感じられる回。板垣恵介×パト2という組み合わせで一本作ってしまう剛毅も凄いが、それは川口敬一郎監督の度量も関係しているかもしれない。

 

■『波打際のむろみさん』6話 「竜宮城とむろみさん」(2013)

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ハーモニー処理・入射光・画面分割からの脳震盪! 出崎×板垣パロディが暴走する中野節が炸裂。作画的演出的"遊び"に寛容な吉原達矢監督の懐に入って乱痴気騒ぎ。

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肝心要の虎王もリピートを利用し、関節のないリュウグウノツカイの関節を外すという荒業っぷり。乙姫はリュウグウノツカイに対し、容赦ないツッコミ代わりに虎王を再使用し、一話数二虎王の快挙を達成。魚類相手だろうとも関係なく技を入れ込む情念に敬意すら湧いてくる。

 

■『LOVE STAGE!!』5話 「チョットダケナラ」(2014)

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アクションが少なく、BL要素のある作品では難しいだろうと思いきや、主人公・瀬名泉水の想像シーンで「完了」。隙あらば虎王、その意気やよし。

 

■『夜ノヤッターマン』5話 「母に捧げるハリケーン」(2015)

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「チンギスハーン、両の脚を虎の顎になぞらえて、タイガーショット! 見事噛み砕きました!」というささやきレポーターの実況も熱い、史上初のメカ戦虎王。スローモーションで技の流れを説明的に見せておき、膝が入る瞬間に速度を戻す緩急がじつに痛快。

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付け加えておくと、中野英明コンテ・演出の2話では『パト2』冒頭の柘植に迫る熱源、ATM(対戦車ミサイル)が間延びした時間を抜けていくカットのオマージュがあり、さらに押井作品に欠かせない"鳥"要素も見逃せないポイントだ。
 

 ■『青春×機関銃』1話 「死なない殺し合いを始めようか」(2015)

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初の監督作で使ってくるとしたら何処だ、と探っている開始3分で虎王発動。ノルマ達成と言わんばかりのスピード展開に驚かされる。技に注目してみると、足を大きく振り上げてカット割りのダイナミズムで見せるのではなく、芝居による技の入りを重視した『LOVE STAGE!!』以降の虎王であることが分かる。

と、ここまでが以前のブログで取り上げていた部分。この後、中野英明による虎王は(見逃しがなければ)観測していないのだけど、関連する作品を紹介したいと思う。

■『劇場版 HUNTER×HUNTER The LAST MISSION』(2013)

監督/川口敬一郎、絵コンテ/青木弘安、中野英明、吉原達矢、嵯峨敏、寺岡巌、佐藤雄三という分担制にもかかわらず、色濃く中野色が出ているパートがある。

・ハッキングされ、ガスが噴出されるときのセリフ「状況、ガス!」(パト2

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・本来戦うはずの相手が変わり、餓鬼(劇場版オリジナルキャラクター)に向かって啖呵を切るズシ「不意打ちにとやかくいうようなら、武術家ではないっす!」(餓狼伝25巻)

・ズシを倒した餓鬼の鼻血、それを拭ってつぶやく「肘か……少しは楽しめた」(餓狼伝13巻)

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各パート絵コンテ・演出の分担が明かされていないので確定はできないが、こんな「細かすぎて伝わらない餓狼伝」をねじ込んでくる演出家は他にいまい。時期的にみても『SKET DANCE』74話と連続性があるように思える。

 

■『キラッとプリ☆チャン』44話 「ファッションショー手伝ってみた!」(2019)

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最後に紹介する『プリチャン』は、中野英明担当回以外で虎王が登場した珍しい話数。アバンで「新開発のアルティメットエモスペシャルでギュギュっとすれば聞き出せると思うけど」という萌黄えものセリフに合わせた画が「虎王完了」だ。おそらくプリティシリーズ恒例の秋田書店ネタの一環だと思われるが、アニメ虎王史に刻んでおきたいワンカット。

以上、総集編と銘打って書いてきたけれど、中野英明監督は現在、主に女性向け作品を中心に手掛け、「暴走演出家」のイメージは薄れてきている。ある作り手が特定の期間、独創的、あるいは個性的な何かを試していたという事例は枚挙に暇がなく、「中野英明の虎王」もそのひとつだったと考えるのが自然だろうか。とはいえ、油断しているとプリチャンよろしく、思いもよらぬアニメで虎の顎が食いつくかもしれない。おのおの抜かりなく……

 

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『放課後さいころ倶楽部』のピアスキャッチ描写

TVアニメ『放課後さいころ倶楽部』は実在する数多くのアナログゲームが登場する作品だ。各話で違うゲームが登場し、デフォルメキャラによってルール説明が行われること、主人公の武笠美姫が京都弁を喋ることなど、パッと目に留まる特徴がいくつも用意されているが、珍しいのは「ピアス」描写に力を入れていることだ。

中でもクローバー型のピアスがアクセントの高屋敷綾。

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注目は、その"裏側"。アングルやフレーム内のサイズにもよるが、ピアスの留め具であるピアスキャッチをきちんと作画しているシーンが妙に印象的で、各話でいったいどのくらい「キャッチカット」があるのか調べてみたくなった。

■「知らない世界」#1

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■「これはゴキブリです!」#2

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■「ひとりとちゃうから」#3

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■「ミドリの夢」#4

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■「キミに伝えるメッセージ」#5

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■「ひよっこデザイナー誕生!」#6

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■「こころ、ひらいて」#7

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■「4人めの友だち」#8

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■「ダルマサンガコロンダ」#9

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■「ハッピーホーリーナイト」#10

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■「みんなのゲーム」#11

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■「私たちの大好きな場所」 #12

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以上、留め具を省略しピアスポスト(軸)のみ作画されたものを含み、今泉賢一監督コンテ回(#1,2,3,6,8,10,12)に当該カットが多く、世界観や設定を熟知する監督の狙いが薄っすらと透けて見える結果になった。また画面サイズによってキャッチの描き込みは変わっているが、多少は作画の裁量による部分もありそうだ。それと綾は途中から白いピアスを付けるようになっており、これは4話のアイキャッチでヘアゴムと一緒にプレゼントされたことが判明する作りになっている。*1

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さて、ここからは「キャッチ」に絡んだ個人的な感想だ。

放課後さいころ倶楽部』は原作マンガの第7巻までを12本にまとめたTVシリーズで、エピソードの足し引きをしつつも、ほぼ忠実に再現されている。そんな中、構成上変化を付けているのが初回のアバンタイトル

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「私は昔から遊ぶことが下手くそで」という美姫のモノローグで始まるアバンは、12話でもう一度繰り返され、初回と最終回が時系列的に直接繋がっていることが明かされる。感慨深いのは、アバン最後のカットだ。

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美姫がベンチにひとりで座り、橋の上に3人が立っている大ロングの構図。

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そしてこれが最終回のラストカット。今度はベンチに4人が座った構図で、美姫を中心とした友情の芽生え、成長が分かりやすく対比的に描かれているわけだ。思えば本作は美姫が翠から誘われた親睦会を断り、綾の「突撃」を避けたところから始まっている。ずっとひとりでいて、相手の好意や興味を受け止めきれない。受け止めて、受け入れる。そのドラマのテーマと特徴的なプロップ、そこに共通する何かを見い出すかどうかはともかく、不安で押し潰されそうになった美姫を優しく抱き止めたのは綾だ。ピアスの落下や紛失を防ぐピアスキャッチ。高屋敷綾の役割も、きっとそういうものだったのだろう。

 

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話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選

年の瀬が近づくと始まる企画、今年放送されたTVアニメの中からエピソード単位で10本選ぶ、「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。

以下、コメント付きでリストアップ。

■『風が強く吹いている』 第23話「それは風の中に」

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脚本/喜安浩平 絵コンテ・演出/野村和也 作画監督千葉崇洋、名倉智史、折井一雅、高橋英樹、鈴木明日香、森田千誉、稲吉朝子、下妻日紗子

松下慶子プロデューサーの担当するTVアニメを「話数単位」でいったい何本選んできただろう。箱根駅伝を舞台にした本作、最大の魅力は「思いをつなぐこと」に対するドラマだ。最終回はその集大成と言える。抜群の「走り」作画は言わずもがな、個人的に身を震わせてしまったのは、ハイジの父親がラジオで息子の激走の模様を聴いている場面。

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父親の表情を映さず、ストップウォッチを持つ手の動きによる心理描写、次にハイジの目をアップをつなぐという憎いコンテワークだが、おそらく対になっているのは14話のラストシーンだ。王子が参加標準記録を突破したその喜びを言葉に出さず、唇の震えと滲む主観によって演出。であるならば、ラジオを聴くハイジの父親の目には何が滲み、見えていたのか。敢えて「見せない」ことで見えない心のつながりを描く。それがドラマだ。

 

 ■『ブギーポップは笑わない』 第13話(夜明けのブギーポップ

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脚本/鈴木智 絵コンテ・演出/斎藤圭一郎 作画監督/原科大樹

「VSイマジネーター」編の第7話で光と影の境界を巧みに操り、鮮烈な印象を残した斎藤圭一郎が「夜明けのブギーポップ」のトリを飾ってくれたことは僥倖というほかない。入念な準備をする霧間凪と回る車輪のメタファーをカットバックするアバンタイトルといい、ブギーポップと凪に当てるライティングといい、類まれな映像センスを要所で感じさせてくれる。

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光の中へ消えていくブギーポップのラストシーンから、絵コンテ・演出・原画を担当したエンディングアニメーションへのつながりも素晴らしい。

 

■『キラッとプリ☆チャン』 第50話「夢のプリ☆チャン、やってみた!」

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脚本/兵頭一歩 絵コンテ/博史池畠 演出/茉田哲明 作画監修/斉藤里枝、川島尚、島田さとし

怒涛の連続ライブ&サプライズ、ボルテージ最高潮の舞台でまさかのミラクル☆キラッツ×メルティックスター、互いのMV交換からミラクルスター結成まで、夢がギュッと凝縮した第一期の総力戦的話数。ライブパートの情報量はすさまじく、変化球の多いシリーズにあって直球勝負で突き抜けた、プリチャン随一のスペシャル回。

 

■『臨死!!江古田ちゃん』第8話

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脚本/武田ゆい 監督・絵コンテ/小島正幸 キャラクターデザイン・演出・背景・美術・作画・色彩設計/谷紫織

怪作揃いの各話『江古田ちゃん』の中で、小島正幸監督は描線のタッチを生かしたシンプルかつ高度なアニメーションを作り上げた。例えば気の置けない間柄であることを示すさり気ない友人Mの仕草、難しい俯瞰のカットアングル、影を省略し淡く塗られた色彩。切り取る対象、カメラの向け方、そのひとつひとつに作家性が滲み出ている。短編だからこそ、剥き出しになる個性。江古田ちゃんは剥くのが上手い女なのだ……

 

■『博多明太!ぴりからこちゃん』 第9話「納涼! 白糸の滝」

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脚本/入江信吾 絵コンテ・演出・作画監督・原画/りお

博多ネタ満載のハイテンポショートアニメ『ぴりからこちゃん』の武器は、ブラックジョークと作り手の持ち味がそのまま反映された画面だ。とりわけ「食われる」話はキレが良く、コンテから原画まで「りお」がひとりで担当した白滝回は特徴的なフォルムとタイミングも楽しめる一粒で二度美味しい話数。マヤのノーブラ揺れを見逃すな!

 

■『からかい上手の高木さん2』 第12話「夏祭り」

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脚本/伊丹あき 絵コンテ・演出/宇根信也 作画監督/茂木琢次、岩永大蔵、阿曽仁美、別所ゆうき
宍戸久美子、清水勝祐、中野江美子、福田瑞穂

『高木さん』特有の"間"と甘酸っぱさが極まったのは、おそらく直前の11話だ。12話はそれを受けてドラマを完結させるべく全力で走り、手を繋ぐまでを描く。高木さんが積極的に西片をからかう反面、「待つ女」であることが明かされる展開の妙、そして決して介入しない、「観察」する側の存在だった木村が垣根を越えて結ぶ二人の道筋、胸をすくような一体感。

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主役の影に名バイプレイヤーあり。木村役・落合福嗣の好演をここに特記しておきたい。*1

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■『ヴィンランド・サガ』 第14話「暁光」

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脚本/ 猪原健太、瀬古浩司 絵コンテ・演出/小林敦 作画監督/山本無以、吉岡毅、佐藤誠之、村田睦明、辻村幸輝、井上修一、松本幸子、網修次郎、栗原基彦

アンという少女の内省とヴァイキングという"外敵"、略奪する者と略奪される者。突然襲い掛かってくる理不尽の中で見えてくる決定的な思想の違い。様々な現実を描きながら、幻想によって締め括られるこのエピソードは、誤解を恐れず言うならば小林敦版「赤毛のアン」だ。生活感の抽出、コミカルかつハードな表情芝居、歴史的背景への理解、いずれも小林敦演出の特徴といっていい。シリーズを代表する一本。

 

■『ちはやふる3』 第5話「あまのかぐやま」

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脚本/柿原優子 絵コンテ/いしづかあつこ 演出/香月邦夫 作画監督/香月邦夫、岡郁美

クイーン位4連覇の実力者・猪熊遥を坂本真綾が演じるサプライズは第3期の大きな見どころであり、同じく高校生で声優デビューを果たした綾瀬千早役・瀬戸麻美と対峙する5話は、いしづかあつこが「監督作以外」で数年ぶりに各話コンテに入った回でもあった。原作の熱量そのままに、アニメならではのカッティングと作画で攻める一方、桜沢の涙をロビーのオブジェクトを利用してより感傷的にするなど、硬軟自在のテクニックを披露。千早たちが強くなっていく間に、作り手も強くなっている。そのシンクロが心地良く、また頼もしい。

関連:『ちはやふる3』の汗と浅香守生

 

■『バビロン』 第2話「標的」

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脚本/坂本美南香 絵コンテ・演出/富井ななせ 作画監督/久保光寿

TVアニメを観ていて、「演出」に圧倒されるということは滅多にない。ありとあらゆる手段を使って視線を釘付けにする、官能的で狂気を秘めた演出的特異点。曲世愛という視線の定まらない女が、いかにして相手の視線を虜にするのか。まるでそれを実体験したかのような奇妙な感覚。「標的」を観た後、富井ななせの痕跡を探ろうとする自分の目は、きっと正崎と似ていただろう。

関連:『バビロン』2話の演出について

 

■『リラックマとカオルさん』第1話「花見」

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脚本/荻上直子 ディレクター/小林雅仁 チーフアニメーター/峰岸裕和

何気ない日常の機微や喜怒哀楽を、カオルさんの等身大の心情で語るストップモーションアニメ。「花見」は初回ながら、四季折々の節目でふと感じてしまう周囲の変化と自身の停滞感、そしてリラックマというファンタジーな存在であるはずのマスコットが放つ不思議な安心感がみごとに調和しており、一通り観た後、またここに帰ってきたくなる。最新の「生活アニメ」は『リラックマとカオルさん』だ。*2

 

今年は「話数単位」にとってひとつの区切りだと思う。 各サイトで発表された結果を集計してきた新米小僧さんが企画を離れてしまうからだ。元々、TVアニメの「各話」に注目する企画として振り返れば、アニメージュが開催していたアニメグランプリに「サブタイトル部門」があり、出発点こそ違えど「話数単位」は「サブタイトル部門」のブログ版と言えるかもしれない。

この企画にはふたつの楽しみがある。まずは話数の選定。一年のおさらいをしながら頭を悩ませ、ああでもないこうでもないと熟考する時間。そして投票集計を見るワクワク。意外なものが上位に来ている年もあって、まだまだ未知のアニメは沢山あるなと何度も実感させられた。つまり企画の"半分"は新米小僧さんの労力と根気、リスト魂によって支えられてきたのだ。とはいえ、集計が止まったからといって企画が終わるわけじゃない。ブログを書いているうちは、ずっと続けていきたい――けれどもひとまず、今年の集計が終わったら一言、お疲れ様でしたと声をかけ、感謝の念を伝えたいと思っている。

と、湿っぽいのはここまでにして。御多分に洩れず、最後まで入れようかどうか考えていたのは、

■『女子高生の無駄づかい』第9話「おしゃれ」(ベスト長縄まりあ回)

■『モブサイコ100 II』第5話「不和 〜選択〜」(伍柏諭炸裂)

■『グランベルム』第10話「もの思う人形」(石田可奈のダークサイド)

■『アイカツオンパレード!』第7話「かがやく三つの太陽」(ソレイユ&志賀祐香)

■『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』第6話「少女とデパートとプレゼント」(TROYCA名物・「6話のあおきえい」)

■『胡蝶綺 〜若き信長〜』第10話「兄と弟」(河野亜矢子による情念的描写)

■『ハイスコアガールⅡ』第24話(日高小春が貫き通した日高小春性)

以上に加え、ハイテンションな演出を連発していた大島克也回をなんとかねじ込みたかったのだけど、隙間なく埋まってしまい……来年以降、「話数単位常連」になると信じてタイムアップ。もっとTVアニメを観よう!

関連サイト:新米小僧の見習日記 「話数単位で選ぶ、2019年TVアニメ10選」参加サイト一覧

 

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*1:落合福嗣は同時期に放送された『女子高生の無駄づかい』11話でもクセのある比喩を多用するぴーなっつPを演じ、ワセダにヲタを追わせた。

*2:アニメ様の「タイトル未定」で『リラックマとカオルさん』が『マジカルエミ』に近いと書かれていたことは、記憶に留めておきたい。209 アニメ様日記 2019年5月26日(日)

演出メモ/『天華百剣 〜めいじ館へようこそ!〜』8話

『天華百剣 〜めいじ館へようこそ!〜』はショートアニメの特性を生かし、一風変わった趣向で攻めてくる作品だ。

演出的にメモしておきたいのは第8話(絵コンテ/藤田健太郎、演出/球野たかひろ)。この回は本編がほぼ4つのポジション(4アングル)だけで構成された、いわゆる同ポ繰り返しを突き詰めた実験作。

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基本は位置関係を伝える俯瞰のマスターショットとテーブル飾りのポインセチアナメの3ショット。ひとつ空いた席をカメラ席にして3人の日常風景、ひとときのティータイムをそのまま切り取るという意図なのだと思うが、同ポ繰り返し+FIXというスタイルだからなのか、(狙ってやっているかはさておき)有名な演出のパロディに思えてくる。要するに細田守*1な遊び心だ。

ちなみに第9話は『ヱヴァンゲリヲン新劇場版:破』を豪快にパロディ。これも一見の価値あり。

 

*1:同ポ繰り返しの意図はリズムが付くことやおかしな感覚、間を作れることが主な理由らしい。

『さすがの猿飛』28話の回し蹴りメモ

NHK NEWS WEB 京アニ・つなぐ思い」のページに11月25日付けで「子どもに夢を ~“天才アニメーター” の素顔~」という記事が掲載された。これはアニメーター・木上益治の軌跡を辿る貴重な証言集。その中であにまる屋時代の同僚・奈須川充さんが『さすがの猿飛』の思い出を語っていた。

須川さんの思い出に残っているのが、テレビアニメ「さすがの猿飛」、第28話「ミカの愛した英雄バイク」。原画を担当した奈須川さんは、作業が間に合わず、木上さんに助けを求めました。快く引き受けた木上さんが描いたのは、主人公の猿飛肉丸がヒロインらに蹴られるシーン。演出の絵コンテにはただ単に「蹴る」としか指示が書かれていませんでしたが、木上さんはその「蹴る」という動作を膨らませ「回し蹴り」として描き出すことで、ダイナミックなシーンに作り上げていきました。どんな些細なワンカットにも一工夫を加え、クオリティを高めていくことに木上さんは徹底してこだわっていました。

 28話で肉丸が蹴られるシーンはAパート、美加がバイクでやってきてからの一幕。

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一見すると天丼のギャグカットだが、ワンカット内に3アクションを入れた贅沢な設計で、魔子の回し蹴りは、踵をターンさせ、蹴る瞬間わずかにジャンプする飛び後ろ回し蹴りだ。

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蹴りを放つ前の予備動作・ポージング、(蹴り脚の)足首の角度や空中姿勢、蹴られた肉丸の崩し方とオバケなど、細かいこだわりがふんだんに盛り込まれている。タイミング的には有名な16話のかすみ(肉丸の母)が肉丸を蹴るカットに近く、見比べてもいいかもしれない。

余談として、28話「ミカの愛した英雄バイク」まで猿飛のあにまる屋回は原画がスタジオ名で統一されており、次の35話から個人名がクレジットされる。けれど、そこに木上益治の名前はない。つまり、シリーズ中一度もクレジットされていないアニメーターなのだ。にもかかわらず、その仕事ぶりが関係者から語られる。京都時代も複数の名義を使ったり、ノンクレジットの仕事が多かったが、猿飛はじつに"らしい"な、と思う。

関連:WEBアニメスタイル もっとアニメを観よう  ■ 02/06/27 第2回 井上・今石・小黒座談会(2)

『ちはやふる3』の汗と浅香守生

6年ぶりのTVシリーズ第3期、『ちはやふる3』を観て思うことは、ひたすら純粋に「面白い」だ。競技かるたに懸ける情熱も、青春群像劇の中で絡み合う恋模様も、ずっと観ていたくなる。原作の勘所をつかまえる抜かりなさ、緊張感を孕みつつ、テンポ良く進める手際の鮮やかさ。浅香守生監督の『ちはやふる』はそう、そんなアニメだったと改めて思い出させてくれた。

浅香守生監督の作風について、印象深い言葉がある。それはマッドハウスの重鎮、川尻善昭監督のインタビューで出てきたこんな言葉だ。

──血と汗の匂いが画面からも伝わってくる感じがするので、少女漫画『ちはやふる』に携わられていたのが凄い意外だったんです。
川尻:昔やった『エースをねらえ』も少女漫画ですよ(笑)。
──『エースをねらえ』は演出されている出崎(統)さんの汗くささを感じる部分もあるんですが、『ちはやふる』はそういった雰囲気があまりないので意外だったんです。
川尻:それは、監督の浅香(守生)君の力量というのが凄くあります。作品に男の汗くささというのがない人ですから。

 ジャパニメーションを作った男 インタビュー川尻善昭(Rooftop2014年12月号)

「作品に男の汗くささというのがない人」という一文を読んで、何かストンと腑に落ちた気分になったことを今でも覚えている。演出デビュー作の『YAWARA!』、初監督作の『POPS』、代表作に数えられるであろう『カードキャプターさくら』はもちろん、太い眉毛と濃い顔つきの男子高校生を主人公にした異色の少女漫画『俺物語!!』にしても、汗くさいとは思わなかった。とはいえ、これは個人的な印象の話であって断定するものではないし、原作の雰囲気を大切にしていることゆえの必然かもしれない。

と、ここからが本題。つい先日放送された『ちはやふる3』の第4話と第5話(2話連続放送だった)は、まさに汗が迸る熱戦の連続。そこで描かれた「汗」ついて、すこし触れてみたい。

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吉野会大会A級準々決勝、綾瀬千早 vs 猪熊遥。元クイーン相手に苦戦を強いられる千早が、「ちは」を送って零れる一筋の汗があった。原作19巻の同シーンと並べてみよう。

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落ちていく汗にカメラワークを合わせ、千早の汗により強い決意を滲ませる。「ちは」は、作品上最重要といってもいい札であり、卓越した「感じ」を持つ相手からすれば格好の狙い札。それを送るということがどんな意味を持つのか、千早が何を胸に秘めて戦っているのか、汗が流れ落ちる"間"に託しているわけだ。時間をコントロールし、原作の絵を再現しながら膨らませる、映像/アニメーションならではの表現といえる。

試合が進み、ふたたび千早の頬を汗が伝って落ちるのは、「ちは」を取られてリズムを崩した猪熊遥が復調し、女王の頃の耳を取り戻しつつあるシーン。

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原作のコマ割りを踏襲したカット割り、違うのは光と影を使った汗の動き。無邪気な猪熊の笑いに対し、相手の強さへの畏敬か、あるいは嬉しさか、不意に笑みがこぼれる千早。「互いに笑っている」というのは、空札なのに札が動いてしまって「風圧ですよね」と二人揃って主張して笑い合う、次の取りへの伏線的な表情だが、アニメの方では千早が笑う前に光が当たっているところから汗が伝い、桜沢と理音が並んだカットを挟み、汗が影中へ伝って落ちる動きにもポイントを作っている。アップダウンの激しい試合展開、その喜びと怖れ、二重の意味付けを行う心憎い演出だ。

光から影へ伝う汗があるならば、影から光へと伝わる汗もある。

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決着となる「しのぶれど」の札が読まれる直前、千早が目を開き、コントラストの強い画面へと変わっていく最中、読手の口元をクローズアップ、光が広がっていき、読手のカットバック、千早のフラッシュカット→取り、と繋がっていく。よく見ると千早の頬の汗に光が掛かった瞬間にS音を発する読手の口元へとカットが切り替わっている。非常に細かいが、対比的/逆転的に汗を見せていることが分かる部分だ。

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勝負後に汗を滴り落とすのは、負けた猪熊遥。これは原作にはない画で表情は見えず、顎先から零れる汗は涙のようにも感じさせる。この猪熊のカット効いてくるのが、「衰えてくるといやになってやめてしまうものよ」と理音に話す桜沢の涙だ。零れるものと零れないもの、汗と涙、綾瀬千早と猪熊遥、猪熊遥と桜沢翠、反復と対比を様々な人間関係に重ね合わせ、見せていく。

他方で、こんな使われ方もしている。

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運命戦となった真島太一と須藤暁人の一戦、最後の決まり字が読まれるとき、画面が暗くなりポツンと汗が落ちたようなエフェクト入り、迷わず敵陣を攻めた太一が勝つ。もうひとつの戦いの汗、それがだれのドラマを示すものだったか、言わずもがな、伝わってくる。

ちはやふる』の試合に汗は不可欠だ。手に汗を握って応援し、汗を拭いながら耳を澄ます。その汗を、浅香守生監督は時にキラキラと光らせ、時に深い影の中に落とす。記号的にするのではなく、工夫と感動を持って、ドラマの助演に仕立て上げる。以前、『マッドハウスに夢中!!』というムックで真崎守監督が「散らしモノのリアリティ」*1を思いつくかどうかが、企画に乗るコツかもしれないと語っていたが、浅香守生監督の「散らしモノ」を見るに『ちはやふる』は最適な作品だ。浅香守生のリアリティ、「汗」はたぶん、そのひとつなのだろうと思う。

マッドハウスに夢中! (Oak book)

マッドハウスに夢中! (Oak book)

 

*1:「僕と彼(丸山正雄)が好きなのはね、チャンバラ映画なんかを見てて、マントをつけた旅人とかがよく出てくるでしょ。それが風が吹くとヒラヒラする、というあのリアリティー。それから木の葉とかの散らしモノ。ああいった細かな演出や、マントがヒラつくかどうかが、僕たちが企画に乗るコツかも知れない」p.76