boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

コンテ力

思い出したように読み返す記事がある。そのひとつが『かんなぎ』を特集したオトナアニメ Vol.10掲載の高橋渉監督による寄稿だ。

 「コンテ力」というものがある。今勝手につけた。それは構図や。つなぎ。芝居のとりかた。絵の巧拙やらシリーズのトーンやらとか、そんな後からの修正が容易なものではない。「情念」。いや彼の場合は「怨念」か。とにかくそれがドパドパ出ている量の大小が「コンテ力」。これは消せない。「良い悪い」はおいといて消してはいけないもの。

こんな出だしから始まる、山本監督のコンテがいかに攻めに寄っていたかを語り尽くした文章。時には「確信に満ちた指定の数々が目指す理想はどれも高い。文句言えない。うるさそうだし」と忌憚なく釘を刺しているあたりもいい。京都アニメーションは高橋監督の所属するシンエイ動画元請のグロスを請け負っていたため(原動画のクレジットはアニメーションDoであることも多かった)、演出家同士が互いを意識するという関係もあったようだ。幽★遊★白書』の原画をしていた頃の西尾鉄也が新房・若林回をライバル視していた話に近いかもしれない。これはその『ハレグゥ』『あたしンち』演出版といった感じだろうか。

もう10年以上前の寄稿文ではあるけれど、アニメーションの絵コンテを考える、語ろうとしたときにフッと頭の片隅を過ぎるのがこの「コンテ力」だ。たとえば、今敏監督の技巧を凝らしたコンテを眺めて浮かぶ情念は「合理と論理」「ひとさじの遊び心」。高橋統子監督のコンテ・演出回で叩き付けられるのは、「感情の雨」。川面真也監督なら「限りのない間と風景」といったように、個々のカット内容であったり、テクニック以上に、覆しようのない演出家の根底的なファクターをもう一度考えようという個人的なきっかけのひとつになっている。無論、言うは易く行うは難し、観察力の至らなさを実感してばかりなのだけれど、「Roundabout 小林敦仕事集」の編集をしているときにも読み返して何とかコンテに込められた情念を掬い取って伝えたいと、気持ちを入れ直したりもした。

同号には、「“fix(カメラ固定)”vs“カメラワーク” 私と山本監督とのささやかな戦い」と題した平池芳正監督の文章も寄せられている。こちらも好きな記事だ。様々な角度からアニメを語ろうと試みた2000年代後半の雰囲気が残っている気がする。まあ、今となっては思うところも色々と……オトナアニメ、なんだかんだ37号も出ていたのだなあ(別冊ムック系を含めると50冊近い)。

オトナアニメ Vol.10 (洋泉社MOOK)

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『風が強く吹いている』の映さない表情

『風が強く吹いている』はこの半年間、最も楽しみしていたTVアニメだった。陸上経験者がいるとはいえ、素人同然の集団をどうやって箱根へ導くのか。物語への興味とキーアニメーター・高橋英樹、向田隆を中心に迫真的かつダイナミックに描くことで達成される「走り」の説得力。フラフラの神童が箱根の山を走っている場面など、神童の家族同様、苦しくて泣きそうになってしまったほどだ。

なのだけど、今回書いておきたいのは別のこと。最終回、第23話「それは風の中に」Aパートの途中、「見てるか、父さん」というハイジ(灰二)のモノローグの後、ハイジの父がイヤホンで箱根のラジオ中継を聞いている。そしてストップウォッチを持った右手を震わしながら、グッと握る。表情は映さない、それがいい。

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ハイジの父は、ハイジの走りの実況を聞きながらその姿を想像し、見ているわけだ。演出もさる者でこの次にハイジの目をクローズアップで抜く。父親として息子に絶望を味わわせてしまった後悔と希望に燃えるハイジの瞳。父親の顔を見せていたら台無し、とまでは言わないが、かなり違ったものになっていただろう。

重要な表情を観客の想像力に託すやり方は、以前にもあった。王子が標準記録を突破する第14話「一人じゃない」で、ハイジがおそらくは泣いてしまいそうになるのをこらえているラストシーンだ。

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藤岡の目線とハイジの口元のわずかな震えだけでふたりの関係性やハイジにどんな感情がこみ上げているのか、語っている。最小限の動きで想像力を最大限刺激する妙技的な演出。勿論これは、この場合「王子の懸命な走り」に動的な魅力や感動があって成立するものだと思う。そうでなければ観客に共感が生まれないのだから。

『風が強く吹いている』が凄いのはこういうところだ。圧倒的とも言える作画力で各々の走りを描き分けてみせたかと思えば、その走りの説得力を巧みに用いて想像力というたすきを手渡す。実力派揃いのスタッフが集まったからこそなせる業かと松下慶子プロデューサーの手腕に脱帽する。

ところで、この豪華コンテ陣にあって見慣れない「那由多十三」とは何者なんだろうか。松下組のコンテで変名を使う人物なのだから、本名を聞けば納得しそうな気がするのだけど……情報求む。

 

風が強く吹いている (新潮文庫)

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話数単位で選ぶ、2018年TVアニメ10選

年末恒例の企画、今年放送されたTVアニメの中からエピソード単位で10本選ぶ、「話数単位で選ぶ、TVアニメ10選」。

以下、コメント付きでリストアップ。

■ 『恋は雨上がりのように』 第12話「つゆのあとさき」

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脚本/赤尾でこ 絵コンテ/渡辺歩 演出/益山亮司、河野亜矢子 作画監督/加藤万由子、小磯由佳、荒尾英幸、清水慶太、西原恵利香、奥田明世、竹本佳子、長原圭太、山本祐子

数本の監督作を抱える多忙な演出家・渡辺歩の“本気”を久しぶりに見た思いがした本作。渡辺演出の真骨頂は『のび太結婚前夜』に代表されるように叙情性を持って人物の内面を描くことだ。そして、ここぞというときには労を惜しまない画作りをする。青空の反射する水溜りの上を走り出したあきら、抱き止める近藤、二人を回り込みで祝福するカメラワーク。ありえたかもしれない未来と踏み出すための約束。後には雨上がりの空の余韻がいつまでも残る。「結婚前夜」の渡辺歩は、青春を忘れていなかった。

関連記事:『恋は雨上がりのように』12話の詩情

 ■『ゆるキャン△』 第5話「二つのキャンプ、二人の景色」

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脚本/伊藤睦美 絵コンテ/京極義昭 演出/鎌仲史陽 作画監督大島美和、堤谷典子

それぞれのスタイル、それぞれのキャンプ。一緒にいなくても同じ景色を共有できる。『ゆるキャン△』的なメッセージ性の強い第5話は京極監督のコンテワークも冴え、賑やかなキャンプ描写から静かな感動を呼ぶラストシーンへの転換が見事。注目の集まったアバンの犬子ブラの重量感も設営よろしく、リアリティを追求する一環だったのかもしれない。

■『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』 第5話「人を結ぶ手紙を書くのか?」

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脚本/鈴木貴昭 絵コンテ/山田尚子 演出/藤田春香、澤真平 作画監督/植野千世子

印象的なエピソードが並ぶシリーズにあって、宮廷女官と王女の絆を描いた一編を山田尚子が担当。絵コンテのみの参加であるにもかかわらず、特徴的なレイアウト、表情芝居、視線誘導など存分に個性を発揮。植野千世子の修正も素晴らしく、寓話的な物語に人の手のあたたかみ、たしかな実感を与えている。ただ一点、サブタイトルだけはもう少し内容に即した物でもよかったのではないかと思った。京都アニメーションのご愛嬌。

 関連記事:『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』5話の視線誘導・ピン送りメモ

■『宇宙よりも遠い場所』 第13話「きっとまた旅に出る」

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脚本/花田十輝 絵コンテ・演出/いしづかあつこ 作画監督吉松孝博、室山祥子

『よりもい』は友情を巡る物語だ。旅が終わると、旅の仲間とは解散する。しかし離れることで新しい友情が始まる。離れている間に、目の前にいない相手のことを考える時間が育まれる。終わりは、終わりじゃない。そのシンプルで力強い友情の形を13話かけて見せてもらった。これでもかというくらい積み上げた最後の最後、圧巻はラスト30秒だ。「残念だったな」の返信に添えられた一枚の画像。目元を震わせながら涙を溜めて、それでも笑っていたキマリと同じ顔を、あの時の自分はきっとしていただろう。

■『あまんちゅ!〜あどばんす〜』 第4話「秋とふわりふわりの幸せのコト」

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脚本/福田裕子 絵コンテ/佐山聖子 演出/佐々木純人 作画監督/加藤愛、高橋みか、鈴木彩

秋の素敵をてことぴかりが各々違うところで発見する、ちょっと不思議で安らぐ小話。空想する夢の中、秋の味覚、桜紅葉の美しさ、急かさずゆっくりと穏やかな時間を自分たちのペースで楽しむ。佐山聖子監督は今年も大車輪の活躍。アクセントの打ち方が心地良く、いつでも安心して観ていられる。

 ■『ハイスコアガール』 第3話「ROUND3」

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脚本/浦畑達彦 絵コンテ・演出/山川吉樹

いつもの駄菓子屋、いつもの『ストⅡ』筐体。けれど晶の様子がおかしい。目が眩むほどの日差しを浴び、出口で佇む晶の様子はまるで消えゆくかのようで――耳をつんざく蝉時雨、何も語らない晶の胸の内を無言のまま物語るアバンタイトルの切なさは絶品。対照的に己の心と向き合い、空港へ駆け出すハルオのシークエンスは雄弁で『ハイスコアガール』を映像化することの意義を、改めて感じた瞬間でもあった。遊び心とドラマ作り、山川吉樹監督の手腕が光る好編だ。

 ■『ウマ娘 プリティーダービー』 第13話「響け、ファンファーレ!」

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脚本/杉浦理史 絵コンテ/及川啓 演出/太田知章、及川啓、許琮、本間修、今泉賢一、阿部ゆり子 作画監督椛島洋介、辻智子、井上裕亮、宮崎司、小島明日香、宮下雄次、合田真さ美、阿部美佐緒、川面恒介、秋山有希、若山正志、河野直人、伊礼えり

サイレンススズカが逃げて、マルゼンスキーが二番手、その後ろにダイワスカーレット、そんな世代を超えた競馬ファンの夢が実現したドリームマッチ。誰が勝ってもおかしくない超豪華メンバー、手に汗握るレース展開、しかしもっとも胸を熱くさせるのは、レースの外から見守ることしかできないトレーナーの決意だ。思えば、同じP.A.WORKS制作の『SHIROBAKO』もそうだった。夢を叶えた人を応援し、見届ける人がいる。その構図が感動的なのだ。

■『アイカツフレンズ!』 第23話「叫ぶ、瞬間」

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脚本・絵コンテ・演出/京極尚彦 作画監督/秋津達哉

スペシャルな演出家と新進気鋭のアニメーターがタッグを組んだ、蝶乃舞花が蝶乃舞花であることを思い切り証明した話数。物語を劇的に盛り上げる術を熟知した京極イズムが所狭しと散りばめられ、天候のコントロール、クロスカッティング、ゲストキャラクターの存在感、唯一無二の迫力があった。中でも舞花の兄・舞人の少ない口数に秘められた闘志、思いやりが心に響く。飛ぶんだ!

キラッとプリ☆チャン』 第31話「マンガの現場いってみた!」

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脚本/佐藤裕 絵コンテ/博史池畠 演出/米田光宏 作画監修/斉藤里枝、川島尚

怒涛の秋田書店ネタを繰り出した『プリ☆チャン』屈指の変化球、いやビーンボール。緒方恵美演じる濃すぎる編集「神戸」と永辻まとん先生の掛け合い漫才のようなやり取りに潜む、ブラックなパロディの数々。「機械に砂を撒くといっとけ」(輪転機に砂を入れる)という台詞や手塚治虫をモデルにしたであろう漫画ゴッドロボ1号の爆発オチ、容赦のない展開がいっそ清々しい。博史池畠監督の面目躍如だ。

■『やがて君になる』 第6話「言葉は閉じ込めて/言葉で閉じ込めて」

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脚本/花田十輝 絵コンテ/あおきえい 演出/渡部周 作画監督/仁井学

喰霊-零-』が終わった辺りからだったか、絵コンテ/あおきえいというクレジットが様々な作品を賑わせていた時期があった。抜群の演出力を武器に、ファンを魅了しては去っていく各話コンテの侍。TROYCA取締役、看板監督となった今、その刀の切れ味に変わりはないのか――。一目見れば分かる。錆びつかせていなかった。誰がやるだろう、あんな眼鏡の使い方を。だれが思いつくだろう、あんな河原の仕掛けを。侍・あおきえい、その腕前に一切の翳りなし。

 

他、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『ヤマノススメ サードシーズン』『SSSS.GRIDMAN』『ダーリン・イン・ザ・フランキス高雄統子回、『ブラッククローバー』63話など、候補に挙げていた作品は数知れず。結果的に気負いなく何度も鑑賞したものを中心にチョイス。今年はPN・ひらがな系アニメーターの活躍やNetflix配信、『あの日の彼女たち』『ベイビーアイラブユーだぜ』といったWeb公開作品も話題をさらい、折に触れて「TVアニメ」の枠組みを自分なりに再考しなければなあ、と思うことしきりの一年だった。

来年はどんなアニメーションに、どの媒体で出会えるのか。楽しみに待ちたい。

青い鳥を待つ図書委員

リズと青い鳥』の登場人物の中で、おそらく最も物怖じせず、鎧塚みぞれに正対するキャラクターは「図書委員」と名付けられた彼女だ。
心が揺れる、感情が揺れる、ポニーテールが揺れる。様々なものが「揺れる」本作にあって、図書委員は下級生でありながら、職務を忠実に全うするブレないキャラクターとして描かれている。
最初の出番はAパート、リズの文庫を読み耽るみぞれに下校の時間を告げる場面。

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「下校の時間でーす。すみやかに退出してくださーい」
「下校の時間でーす」
「あのー」
「カギ、しめるんですけど」

次はBパート、向日葵が咲き始める頃、文庫の返却に来たみぞれに対して、

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「あの」
「返却日、一ヶ月も過ぎてるんですけど」
「他にも借りたい人がいると思うんですけど――」
「……」
「図書館の本はみんなの本なんです(けど)」

無言を貫くみぞれを攻め立てている風に見えなくもないが、内容はほとんどコメディ。パッケージ特典の録音台本に「VSみぞれ」と書いてある通り、真面目な図書委員は反応の乏しいみぞれに頑張ってボールを投げているのだ。何よりこのシーンで可笑しくも愛しいのは、図書委員の言葉を遮るように助けに入った希美と一緒に廊下を歩いているとき、嬉しくなったみぞれが放つ渾身のジョーク。

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「『リズ』なら、私が借りたやつ貸したのに」
「…それ、だめなんだけど」
「え」
「又貸しに、なるんだけど」
「どうした? みぞれ」
「図書館の本は、人に貸したらだめなんだけど」
「はいはい、わかりました!」

図書委員の真似、しかも口癖である「けど」まで拾って“あの”みぞれが興奮気味にジョークを言う。優子あたりが見たら、涙を流しそうなワンシーンだ。ちょっと深読みすると、これはラストの「ハッピーアイスクリーム」に掛かっているのかもしれない。何故なら「ハッピー~」のト書きには「二人同時に同じことを言って、みぞれ、覚えたてを使ってみる」とあり、雛のインプリンティングのように“覚えたて“の図書委員を先に見せておいた、という伏線的な意味合いとして受け取ることもできるからだ(みぞれの興奮度合い、「ハッピーアイスクリーム」は希美がわかっていないところもポイント)。

そして最後はDパート、またもや返却日を過ぎてしまい、再三の注意を受けるみぞれ。

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「あの、次は返却日、守っていただきたいんですけど」
「……」
「……」
「はい…」
「(被せ)図書館の本は、みんなのものなんですけど」

三度目の正直か、ついにみぞれが返事をする。そのコミュニケーションの発生も感動的だけれど、返事を待っているときの図書委員の表情が見ものだ。キュッと口を結んで、あなたの返事をいつまでも待ちますよという姿勢を崩さない。図書委員はみぞれを待っていてくれる人物なのだ。「待つ女」気質のある鎧塚みぞれをさらに「待つ女」、それが図書委員(3年生に「次は」と声をかけるのも含みがあるように聞こえてしまうが、これは邪推)。それに何かを「待つ/待たせている」関係はこの後の階段を下りるシーンで「みぞれのソロ、完璧に支えるから。今は、ちょっと待ってて」という希美の台詞があるように、本作の象徴的な関係性と言える。

また図書委員はみぞれのカウンター的なキャラクターだが、演出においてもそうかもしれない。山田尚子監督は余白や空間を巧みに操る演出家だ。人物を左右いずれかに寄せたり、目元・口元を意識させたりとレイアウト上の精神作用を絶えずコントロールする。にもかかわらず、図書委員はいわゆる日の丸構図で中央にドッシリと構えさせ、みぞれと向き合わせている。まるで青い鳥を逃がさないというような、フレームの真ん中からまっすぐみつめる視線。彼女が待っているのは鳥の羽ばたく一冊の文庫。そして青い鳥を助けにくるのはいつも、「はいはい」と軽く返事をするリズ。ここでも青い鳥の扉を開けてやるのはリズなのだ。

なお、図書委員のキャストは、吹奏楽部員でクレジットされている馬渡絢子さんだそうだ。インパクトのある役だったのに、エンドロールに「図書委員」の役名がないのはちょっと切ない。“次は”しっかりと載せていただきたいんですけど。

22/7「あの日の彼女たち」考 day04 佐藤麗華


22/7 「あの日の彼女たち」day04 佐藤麗華

映像におけるファーストシーン、ファーストカットは特別だ。
そこで引き込まれるかどうか、視聴意欲をかき立てられるか否か。それがすべてではないにしろ、やはり主張のある切り出し方をするものにより惹かれるし、そういうものが観たい。「あの日の彼女たち」はどれを観ても最初の画作り、音作りに緊張感がある。しばしば冒頭のBL画面に音を先行させ、没入感を高めた編集が見受けられるが、それも工夫のひとつだろう。音という環境情報が「あの日」への糊代になっている。

「day04 佐藤麗華」はこわばった心をほぐす一編だ。撮影のときに「リーダーっぽい笑顔」を注文された麗華はそれがどういう笑顔か分からず、証明写真を撮って確かめてみるが……。証明写真機内から見下ろす構図のファーストカット。狭い室内で麗華は手を握り身をギュッと縮め、息を吸う。撮影が終わると溜め息まじりに脱力。取り出し口から出てきた証明写真には、心なしか硬い人工的な笑顔が写っている。

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なんてことはない、この最初のシーンで伏線的なのはカメラがじかに表情を捉えていないことだ。モニターや写真で確認できるとはいえ、それは違うレンズを通したもの。「本当の表情」は分からない。そうやって観ていくと全16カット中、麗華の表情を正面から直接映したカットはひとつしかないことに気づく。しかもそれすら上を向いて上下が逆さま。つまりメタフィクショナルな見方をすれば、「彼女たちの違う表情」を映すという本作のコンセプトに疑問を投げかけているわけだ。藤間桜のいう「それってどんな顔?」はまさに伏線を回収する台詞。ちょっと頭をひねると、何とも一筋縄ではいかない言葉のように聞こえてくる。

しかしこれはそんな固くなった心と体を柔らかくする、微笑ましいフィルムでもある。そこで象徴的に使われているのが、呼吸だ。最初の呼吸は満足な笑顔が作れず、証明写真機の中で思わずついた溜め息。二度目の呼吸は桜の背中の上。かつぎ合い(背中合わせで交互にかつぐ柔軟体操)の途中、麗華はゆっくりと息を吸い、自分の悩みを吐露する。ひとりで抱え込んだ溜め息とだれかの背中で支えられながら吐く息。その違いを自然なまま描き分けるところに、このフィルムの奥行きがある。

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かつぎ合いというアイディアもいい。アイドルと素顔、緊張と弛緩、対義関係にあるふたつの状態を背中合わせにしているようにも見えるからだ。ラストシーン、「重い?」と訊く麗華に桜はちょっとおどけて「今日だけじゃぞ」と答える。この「重い?」は精神的な意味合いと、もしかしたら様々な“状態”を訊いていたのかもしれない。だが桜はそれをあっさりと受け止める。そして鏡に反射する彼女たちの「側面」。ファーストシーンからずっと見えなかった麗華の表情を、桜を通して映す鮮やかなクロージング。

若林信監督はいったいどこまで構想を練り、映像を作り上げているのだろうか。見れば見るほど驚かされる。

22/7「あの日の彼女たち」考 day03 立川絢香


22/7 「あの日の彼女たち」day03 立川絢香

立川絢香は真意を悟らせない。

「あの日の彼女たち」キャラクターPVの中で最も鮮烈なイメージを残す1本かもしれない。「day03」の舞台は帰宅途中だと思われる列車内。映像的には「開く」ところから始まり、「閉まって」終わるという収まりのいいフィルム。だが、その内容は意味深長かつ幻惑的だ。

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最初から追ってみよう。まず飛び込んでくるのは絢香がイヤホンで聴いている大音量の音楽。連結部から貫通扉を開けると音量は小さくなり、絢香は車両の中を歩いていく。すると鞄を抱えて眠りこけている戸田ジュンを見つけ、イタズラ交じりにほっぺたをつんつん……*1ただ車内を歩き、ジュンの頬をつつくだけなのに、映像構成に軽い混乱を覚えてしまう。

そのトリッキーな演出の正体、混乱を誘う要素の第一は方向性だ。ファーストカットで左向きにとっていた進行方向が3カット目では右向きになり、ジュンを見つけると左、そのまま固定されるのかと思いきや、頬をつつくカットは窓ガラスの逆向き反射カット。そしてジュンが目覚めるとふたたび左という風に目まぐるしく画面上の向き(上手下手)が反転していく。

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さらに拍車をかけるのは、出没自在に思わせる編集の妙。3カット目で歩いていた絢香が、次のカットでは既にジュンの乗った車両に立っている。跳躍された時間は「映像より先行して閉まる扉の音」*2に吸収され、これはとくに違和感のないカッティングだが、頬をつついた後、繋ぎの間に絢香はジュンの横へと“出没”する。連続的な時間のジャンプと向きの反転を重ねた、いわば編集のトリック。ジュンも驚いているが、映像にも驚きがあるという仕掛けだ。

見逃せない表現でいうと、熟睡するジュンの前まで歩いてきた絢香に掛かる影。撮影の見どころともいえるこのカットは、イヤホンを外す芝居と相まって非常に意味深だ。素顔が光に照らされるのではなく、無表情の中の表情が影によって浮かんでくるというような、これも通常の逆、反転の演出だろう。

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だからこそ、ちょっとオーバーリアクションで純真なジュンが愛らしく(ポッキーを食べる前後のポージング、芝居はじつに堀口悠紀子的)、絢香がどうしてジュンをからかったのか、何となく理解が及ぶ。

後半の恋愛話もそんな「からかい」の延長線上のあるもの。映像のフックは反射と視線、立ち位置だ。席がこれだけ空いているのに、おそらく絢香に合わせて立ったジュン。そこに性格的な優しさであるとか、思いやりが垣間見える。そして視線を外したまま始まる突然の告白。走る車両の進行方向で惑わした前半に比べ、後半は言葉によって向きを狂わせている。止まった車内で行われる行き先不明の話。ドアガラスの反射を利用した切り返し、視線の泳ぐジュンと微動だにしない絢香。互いの表情を見せないシチュエーション作りが巧みだ(向かい合っているのに、向き合えない会話)。

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注目したいのは好きな人がどんな人かと訊かれ、「いとこのお姉さん」と答えるまでのすこし考えるそぶり、視線。絢香のわずかな心の動きが観客にだけ伝わる(直後の発車ベルが助演音響)。予想外の答えだったのか、ハッとするジュンとようやく視線が合ったと思ったら、待ってましたとばかりにドアが閉まってしまう。話の終着と同時に発車。ジュンが閉まる扉を振り返り、結果的に乗り過ごすという秀逸なオチに加え、2人の関係性における変化、「何かが始まった」と思わせる裏地の機微が心憎い。「閉まって」終わると共に「開く」意味合いもあるわけだ。

立川絢香は真意を悟らせない。しかし反転した見方をしてみると……幻惑的な映像演出の奥に意外な一面が見えてくるかもしれない*3

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マスターショット3[応用編] 1つ上のクオリティを目指すための撮影術

マスターショット3[応用編] 1つ上のクオリティを目指すための撮影術

  • 作者: クリストファー・ケンワーシー,石渡均
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*1:頬をつつく直前、わずかにタメる。

*2:Jカットと呼ばれる編集技法。

*3:笑顔の裏の裏をどう読むか。

22/7「あの日の彼女たち」考 day02 河野都


22/7 「あの日の彼女たち」day02 河野都

「day02 河野都」は要約すれば、「ファミレスのコールボタン*1をいつ押すか」という話。にぎやかな場所を舞台にしているためか、雰囲気は明るく、空気感や色合いもはっきりしていてどこかコメディタッチ。明朗快活、身振り手振りの大きい都、冷静に物事を決めたい性格の丸山あかね。対照的な2人*2のコールボタンを巡る攻防戦、コントチックなノリが愉しい。しかしよくよく観ると、作為的な会話劇に見せない工夫を凝らした映像であることに気付かされる。
たとえば、何度も使われるツーショットの構図。画面の中心にカメラを設定するのではなく、少しだけ都側に寄り、やや俯瞰のアングルで2人を収めている。状況的な力関係、流れの向きを自然に印象付ける、抜かりないカメラポジション。視線/目線の設計も技巧的だ。44秒辺りのバストアップ(あかねの見た目)までカメラ目線のカットを使わず、観客を巻き込んだ視線の衝突、同一化と緊張感が連動する形になっている。

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面白いのは視線がぶつかる緊張そのものをコメディにしてしまっていることで、なかなかコールボタンを押させないあかねに対し、都は人差し指を伸ばしたまま右手を大きく振り上げ――眩しい光が画面を包む。この光の変化は滝川みう潜在的な輝きを照らした「day01」のものと似ているが、ここでは演出ジョークのような扱い。相手の出方を見て動かない2人、その横を何食わぬ装いでウエイトレスが通り過ぎ――同時に観ているこちらの緊張も去っていく。不意に視線を動かす都、何かを見つけたような顔で外を見つめ、その表情に釣られ横を向いてしまうあかね――ポチッとな。細かい視線の動き、表情芝居、リズミカルなカッティングがすばらしく、一呼吸遅れて反応するあかねが微笑ましい。

そして一旦BLカットを挟んで時間を飛ばした後、緊張の注文を終えたあかねの安堵を余所に、あかねの思い付かないような注文をする都。「え?」というリアクションの横顔をボカしたままのカットアウトが小気味よく、対比的な切り返しがちょっぴり意地悪だ。

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話としてシンボリックな部分があるとしたら、ボタンを押すという行為(どういういきさつでアイドルになったのか、いつ決めたのか)と「何かを見つける」(違う側面の発見)ことの比喩だろうか。バックストーリーも気になるところだ。あかねの浮かべる安堵の表情(ファミレス慣れしていない感じ)や彼女の横に置かれた水色のリュックサック、やたらと上機嫌だった都、このファミレスに来るまでの物語を考えてみたくさせる材料が散りばめられている。ユーモラスで想像しがいのある一編だと思う。

マスターショット2 [ダイアローグ編]

マスターショット2 [ダイアローグ編]

  • 作者: クリストファー・ケンワーシー,吉田俊太郎
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*1:正式にはワイヤレスチャイム、あるいはコードレスチャイムと呼ばれる製品。

*2:都はちゃっかりしているし、あかねも案外ノリがいい。じつは似ているのかもしれない。