演出メモ/『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』6話
『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』第6話は恒例のあおきえい絵コンテ回。偶然なのか狙っているのか、TROYCAの加藤誠監督作品(『櫻子さんの足下には死体が埋まっている』『やがて君になる』)にあおきえいがコンテ参加するときは決まって6話だ。パトレイバーの松井刑事なら、TROYCAのマニア向けサービスと読むかもしれない*1。
今回メモしておきたいのは、主に構図感覚。Aパートで多用されたシンメトリー、ダッチアングル、真俯瞰など左右のバランスや対角線を意識した構図が、まるで魔術的に作用していたかのような錯覚を起こさせる。「潤沢すぎて過剰な反応を呼んだ結界術式」という話の肝を画面構成でなぞらえ、見せていたわけだ。
シンメトリックな人物配置、水平・垂直を意識したカメラアングルで印象付けていく演出は、過去の「TROYCA6話」でもお馴染み。
最近よく使われている90度傾けたダッチアングルは、折り目正しい画面が続いた後だと一層驚かされる。
また、TROYCA以前のTYPE-MOON関連作を振り返っても、あおきえい節のシンメトリー構図は見受けられ、例えば『Fate/Zero』第1話の会話シーン。
構図の狙いとしては同じかもしれないが、天秤が揺らぐような取引だからか、ここでは中心に配置された人物・オブジェクトが効果を上げている。そして、より徹底的に"対称性"にこだわった作品と言えば、『空の境界 未来福音 extra chorus』(2013)*2の一幕「1998年10月 02_daylight -October, 1998-」を挙げないわけにはいかない。
宮月理々栖と安藤由子のふたりを対称の存在として描き、そこへ非対称であり、また対称でもある浅上藤乃を関与させ、未来と過去を映し出していく。
時間的存在的画面的な対称を編み込んだこの一篇は、「シンメトリー」というコンセプトが感情を揺さぶり、強く訴えかける。それが指し示す先にあるのは祈りだ。対称であるからこそ気づける真意。画面の構図と物語の構図が重なり合い、同じ方向を見つめるラストシーンは美しく、あおきえい演出の正統を観た思いになる。
『未来福音 extra chorus』に触れたついでに「猫」の話もしておこう。
幹也が式の部屋に一匹の猫を預けて出掛ける「1998年8月 01_feline -August, 1998-」、グレイが餌付けしてしまった野良猫に懐かれた『ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note-』第0話、TYPE-MOON作品に携わる宿命というべきか、あおきえいは意外と猫に縁がある。
そもそもが「ネコアルク」に代表されるように、古くから猫をモデルにしたキャラクターは数え切れず(式もそれっぽい習性がある)、TYPE-MOONのアニメ作品を演出する以上、当然だという気もするのだけれど、動物としての猫、それも黒猫を扱ったエピソードに関わっているのは見逃せない。
というのも、よくよく観直してみると、『やがて君になる』6話にも登場していたからだ。
侑が燈子を連れて河原に行く途中の通学路、塀の上にいる黒猫がふたりを見ている。人物の映っていないオフ台詞で進行していくパートのワンカットなので、深い意味を求めるものではないが、次にクレジットされた仕事が『ロード・エルメロイII世の事件簿 』0話ということを考えると、なかなかおもしろい。佐山聖子*3、新海誠*4に続く"猫"演出家がじつは誕生しているのかもしれない。
ロード・エルメロイII世の事件簿 -魔眼蒐集列車 Grace note- 1 [Blu-ray]
- 出版社/メーカー: アニプレックス
- 発売日: 2019/09/04
- メディア: Blu-ray
- この商品を含むブログを見る