boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の色使いと設計

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ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の画作りには圧倒される。風になびく髪の柔らかさ、皺の描き込み、繊細な表情芝居……TVアニメの水準はどこまで引き上げられるのか。見ているこちらが心配になってしまうほどだ。そんな高密度の画作りを支える重要な要素のひとつに色使いがある。キャラクター本体のノーマル色、影色、シーンカラー(夕暮れ、室内etc)に加え、周囲の環境やオブジェクトからの照り返し、反射色を使った設計が特徴的。

この光と色の設計で思い出すのが新海誠作品だ。2007年公開の『秒速5センチメートル』の時点でハイライトと影の境目に彩度の違う色を足す試みがなされていたし、環境光、間接光を用いた反射色で塗り分け、キャラクターの輪郭線も同色の色トレスという『言の葉の庭』(2013)を忘れるわけにはいかない。風景と人物の一体感が生み出す独特の叙情性、それが新海誠の構築した手法だった。

ヴァイオレット・エヴァーガーデン』に話を戻そう。本作は主人公であるヴァイオレットが世界をみつめ、愛を知る物語だ。ゆえにヴァイオレットが見る色、照らす光はそのままテーマと結ばれる。つまり人と出会い、その色を知っていくことだ。たとえばC.H郵便社に勤める自動手記人形のひとり、エリカ・ブラウン。緑を基調とした装いでデザインされており、第2話は彼女の持つ「緑」が画面を覆っていた。

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ヴァイオレット自身も同色のスカートをはき、各所に配置された緑の中で働く。そこには自動手記人形として共通する思いや、エリカ個人の心情を滲ませる意図もあったはずだ。第3話は養成所で知り合うルクリアの色。赤みがかった髪、煉瓦作りの学校、鮮やかな夕景が世界を彩り、ルクリアと兄の記憶を辿る。

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そうしてキャラクターと舞台の色彩を重ね、語られた思いを感情の表現力に乏しいヴァイオレットが感受する。人の気持ちを学んでいく。それが物語に設計されたコントラストであり、反射色だ。 

本作の色彩設計は『Free!』『映画 ハイ☆スピード!Free! Starting Days-』の米田侑加。世界観の絵筆である美術監督には渡邊美希子。このふたりは『小林さんちのメイドラゴン』を担当したコンビ。シリーズ演出に抜擢された藤田春香も色や影付けにこだわる演出家で、より自然で高度な光のコントロールを志向しているようだ。そして画作りの緻密さに比べて、物語の主題には過剰な装飾を施さない石立太一監督。これからヴァイオレットにどんな光を当て、色を見出だしていくのだろうか。楽しみだ。