『恋は雨上がりのように』 #3 雨雫の表現
勢いで告白してしまった夢から醒めたあきら。勘違いされたという失敗の念が強いのだろう、髪は千々に乱れ、苦い表情。起き上がり、ベッドから出ようとしたとき、右足の剥がれかけたペディキュアが目に止まる。あきらは除光液とハートの形をしたネイルのボトルを取り出して、ペディキュアを落としながらつぶやく。
「ありがとうってなに。もしかして私、なにか間違えた?」
ここまでが『恋は雨上がりのように』第3話のアバンタイトルだ。いつも心憎いアバンで始まる本作にあって、これは殊更にまた暗喩めいている。「ハートの雫」を使って、もう一度塗り直す(告白をやり直す)というのだから。第3話のサブタイトルは「雨雫」。アバンを見ても分かる通り、様々な「雫」をキーとし、陸上への思いと近藤への思慕、あきらの想いを受けた近藤の戸惑いを追ったものになっている。
たとえばAパート、陸上部の後輩に誘われて部活を見学するあきらは、思わぬ会話の流れからファミレスに来ようとする後輩に「来ないで」と語気を強めて拒んでしまう。そして走り去る場面、俯瞰であきらと陸上部のメンバーを捉えたストップモーション。そこに浮かぶ雫。
上空から降り出した雨が地面に落ちる直前、空中にある雨粒をイメージ的に入れ込む。陸上への未練がありながら、時間を止めてしまっているあきらの比喩であり、泣き出しそうな胸の内を「止まった雫」で表現しているわけだ。
雨に打たれながらあきらが向かったファミレス。その告白シーンでは近藤の時間が停止する。
土砂降りの雨音が消え去り、あきらの呼吸と足音、滴り落ちる水の音だけが聞こえてくる刹那の静寂。そこからの繋がりもいい。Bパート冒頭、車の中でタバコを吸う近藤の目の前で動くワイパー、拭き去っても後から後から降ってくる大きな雨粒。告白が雫となってオーバーラップしてくる、という構成だ。
ここで伏線的に盛られていた缶コーヒーをタバコの吸殻入れにしてしまう描写。羅生門の一節をそらんじて現実味のない、どうしようもないことだと思っていながら、まだ入っているコーヒーに灰を落とす。それが回収されるのはBパート後半、あきらを送っていく車内のシーン。あらためて好きだと大声で叫ばれ、動揺からコーヒーに口をつけてしまい、あきらのことばかり考えていた自分にハッとする。
車内のラスト、震えたあきらの腕に窓ガラスをつたう雨雫の影を映すカットが秀逸。どうしていいか分からない、返事を待っている。そんな心理を沈黙のまま補う表現だ。今回の絵コンテ・演出は助監督を務める河野亜矢子。この文学的で情緒溢れる仕上がりは脚本と演出の合わせ技だろうか。あの手この手で攻める「雫」をまた見たい。