boogyman's memo

アニメーションと余日のメモ欄

古畑か、コロンボか

「再放送で観たドラマ」というジャンルの「海外編」があれば、『刑事コロンボ』はそのランキング上位に挙がる筆頭だろう。かくいう自分も再放送でコロンボワールドに引きずり込まれたひとりだが、きっかけとなったのは三谷幸喜脚本の『古畑任三郎』だ。「倒叙」を巧みに生かしたドラマの構成、ほんの少しでも疑いを抱いたらねちっこく執拗に付きまとう刑事のキャラクター性など、何故古畑が「和製コロンボ」と呼ばれているのか、"本家"の鑑賞を経て深く納得したことをよく覚えている。

いま現在も『コロンボ』の再放送*1は続いているが、今回は放送前に「刑事コロンボ 完全捜査ファイル」という特番があった。作品の魅力を様々な視点で紹介する入門編でありながら、コロンボの像が立つハンガリーブダペストやドイツのミステリ聖地・クリミナルハウスにカメラを向けたり、コロンボファンの有名人が思い出を披露するパートがあったりと中々侮れない内容で、ファンのひとりとして登場した三谷幸喜もカセットテープで録音したセリフを繰り返し聞いた話、また自身のベストだという「祝砲の挽歌」を存分に語っている。

このファンによる「ベストエピソード選考」は両作に共通する性質だ。基本的に一話完結である作りと各話の味付け、犯人役の個性が「ベスト」を語らせたくなるのかもしれない(加えてコロンボは演出にも多大な見どころがある*2)。仮に自分がベスト候補を今の気分で挙げるとしたら下記の通り。

刑事コロンボ

第4話「指輪の爪あと」(ゲストスター/ロバート・カルプ)

第15話「溶ける糸」(ゲストスター/レナード・ニモイ

第32話「忘れられたスター」(ゲストスター/ジャネット・リー

第41話「死者のメッセージ」(ゲストスター/ルース・ゴードン)

第51話「だまされたコロンボ」(ゲストスター/イアン・ブキャナン)

 

古畑任三郎

第8回「殺人特急」(犯人役/鹿賀丈史

第11回「さよなら、DJ」(犯人役/桃井かおり

第20回「動機の鑑定」(犯人役/澤村藤十郎

第22回「間違われた男」(犯人役/風間杜夫

第32回「再会」(犯人役/津川雅彦

スペシャルはどれもいいが、"二枚腰"の「今、甦る死」(犯人役/藤原竜也石坂浩二)の完成度が頭抜けている。

ちなみに両作を比較しながら楽しむマニアックな見方として、「三谷幸喜コロンボリスペクト探し」もある。その具体例が先月放送された『刑事コロンボ』第56話「殺人講義」だ。これは大学を舞台とした遠隔操作による殺人で、身勝手きわまる犯人へ向けた同情の余地は一切ないのだが、おそらくこのエピソードの要素を抽出し、翻案したものが木村拓哉vs古畑の有名な観覧車爆弾事件、『古畑任三郎』第17回「赤か、青か」だろう。最大のポイントはラストシーン、珍しく激昂するコロンボを「唯一犯人に手を上げた古畑」と置き換え、脚色していることだ。つまり舞台や人物相関、トリックを参考にするだけでなく、刑事の感情的な部分にまで敬意を払いドラマを作っているのだなと分かる。三谷のコロンボ愛を感じられる瞬間だ。

締め括りにトリビア(?)をひとつ。かの押井守監督も意外とコロンボを観ている様子で、コロンボの愛犬(バセット・ハウンド)は登場するたびに違う犬だという指摘を自著で行っている*3。正直言って何度見ても全く区別が付かないのだけど、世界のバセットマスター・押井が言うなら……と頷いている次第。ホントかな?

  

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*1:刑事コロンボ|NHK BSプレミアム BS4K 海外ドラマ

*2:スティーブン・スピルバーグ演出「構想の死角」、特にファーストカットは語り草。

*3:押井守の映像日記 実写映画 オトナの事情」インタビュー。